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【第7話】他のモノ

「そんな、まさか……」

 裕美子は電話の向こうで驚愕した。

「今の克はどうもおかしな所がある」

「確かに睦美に乱暴したのは確かだけど、どうして彼が自分の家族を殺すの?」

 克の実家の家族は、両親と妹、そして祖父母、全部で五人が惨殺されていた。そして家中の金品が奪われたらしかった。

 克が実家へ帰った直後の出来事だ。そして、克は行方知れず。

 もちろん、世間では彼は既に死亡した事になっているので、この犯行が克の仕業だと思う者はいないだろう。

「とにかく克は危険だ。見かけても絶対に近寄るな」

「判ったわ」

 電話を切った斗馬は、あのデジカメを何日ぶりかに手に取って電源を入れた。

 すると、驚いた事に再び誰かの顔が、ファインダーと液晶画面に浮かんでいる。しかも、今度は全くしらない顔だ。

 既に目鼻もはっきりと浮き出ていたその顔は、四十代くらいの男性のようだった。全く関わりの無い男が何故カメラの中に浮き出てきたのか……

 斗馬はとっさの思いつきで、プレビュー機能を使って、メモリーの中の画像を探した。

 すると、以前駅向こうの公園で裕美子を撮った時に背後に写り込んでいる男性がそれだった。

 ……どういう事だろうか。何故この男性が浮き出てくるのか、どうしても判らない。

 次の日、あの中年男性の顔は、ファインダーと液晶画面から消えていた。

 一瞬ホッとした斗馬だったが、克の時を思い起こして身体が震えた。

 あの男は死んだのではないだろうか? そしてデジカメの液晶に現れた。そして、そこから消えたという事は……斗馬はその先を考えるのが怖かった。

 そんな斗馬を嘲笑うかのように、デジカメの液晶には既に次のシミが出来ていた。

 次は誰だ? どんな奴が現れる? 斗馬は恐怖とは裏腹に、異常な興味が沸き起こる自分を感じていた。

 しかし、そこに現れたのはどうも人の顔にしてはおかしい……そう思っていた通り、今度は犬の顔が現れた。

 斗馬は直ぐに気付いた。それは、以前公園で裕美子が頭を撫ででいた人懐っこい柴犬だった。

 ……この犬も死んだのか?



 その夜、何日かふりで裕美子が部屋に来た。

 次々にカメラの液晶に浮かび上がる顔の事を裕美子に聞かせた。

「じゃあ、みんな死んでるのかしら」

「さあな、知らない奴は調べようがない」

 斗馬は床に座ったまま、ベッドの縁に寄りかかる。

「その犬だったら、公園に行ってみれば判るかもよ」

 裕美子は斗馬に寄り添うように身体を寄せて言った。



 翌日、デジカメの液晶に現れた犬の顔は消えていた。

 日曜日だったので、二人は以前行った時と同じような時間帯に公園に行って見る事にした。

 近所といっても駅向こう。歩いて十五分くらいはかかる。

「犬の散歩って、だいたい同じような時間にするでしょ」

「そうだけど、みんながみんなそうだとは限らないんじゃないか?」

「でも、たいがいは一緒よ」

「どうして判るんだ?」

「だって、犬がその時間になると、散歩行こうよ。て、騒ぎ出すもの」

「へぇ、そんなんだ」

 斗馬は犬を飼った事が無いので判らなかったが、裕美子は実家で犬を飼っているのでそんな習性を知っていた。

 二人は公園の敷地に入った。

 そんなに大きな公園ではないが、周囲を垣根で囲んで雑木林もある。真ん中に池があってその周りには遊歩道が設置してある。

 斗馬と裕美子は、遊歩道に沿ってブラブラと歩いた。

「確か、この前来たのも今頃の時間よね」

 裕美子がそう言って斗馬を見上げたようとした時、前方からあの柴犬が歩いて来るのが見えた。もちろん、リードを着けて飼い主に連れられている。

「あれ、そうだよね」

 裕美子は笑みを浮かべると

「やっぱり死んだわけじゃなかったのよ」

「いや、待て」

 斗馬は、犬に向って近づこうとした裕美子の手を掴んだ。

 確かに飼い主も、あの時一緒にいた多少ふくよかな中年女性に間違いない。しかし、斗馬は腑に落ちなかった。

「死んでから戻って来たのかも」

 斗馬の言葉に裕美子の顔が強張る。

 立ち止まっていた二人の前にその柴犬は近づいてきた。

 裕美子はしゃがみ込むと、多少恐る恐るだったが以前のように犬に手を伸ばした。が、その途端「ガウッ」と声を出して、柴犬は彼女の手に噛み付こうとした。唸りを上げる間もない。

 鼻の頭に険しく寄ったシワと白い牙は、敵意を剥き出しにしていた。

 一瞬早く飼い主の女性がリードを引いたので、犬の牙は空を噛んだが、裕美子も慌てて手を引っ込めた。

「大丈夫か?」

 一歩後にいた斗馬が、目を丸くして驚いている裕美子の肩に触れる。

 一瞬獰猛な表情で自分の手を容赦なく噛み付こうとした犬に、彼女は恐怖した。

 しかしその犬は、その後何事も無かったような澄ました顔をしている。

「ごめんなさいね。最近ご機嫌ななめで」

 飼い主が苦笑しながら言った。

「その犬は以前コイツに、いやこの女性にもなつきましたよね」

 斗馬が飼い主の女性に訊いた。

「前は誰にでもなついたんですよ。それなのに、先週逃げちゃって、戻って来たら何だか別の犬みたいになっちゃって」

「逃げたんですか?」

「ええ、うちは……本当はいけないんですけど、庭の中で放し飼いなんですよ。それで、玄関の横に仕切りを設けているんですけど、それをうちの人が閉め忘れて」

 飼い主の女性はそう言って、思い出したように憤懣ふんまんな顔を見せた。

「どのくらい行方不明に?」

「6日くらいかしら。あたしも半分は諦めてたんですけど」

 そう言ってから女性は笑みを増して

「そしたら今朝早く、自分で戻って来たの」

「そ、そうですか」

 斗馬はそう言って、犬を見下ろした。

「なんだかあまり触られるのが嫌みたいで。あたしもほら」

 そう言って差し出した女性の左右の手にはバンソウコウが何枚か貼られていた。

「噛まれたんですか?」

「まあね。それでもやっぱりかわいいのもでね」

 飼い主の女性は、笑いながら噛まれた両手を摩った。




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