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【第3話】友人の影

 アパートに戻った斗馬は、カメラから抜き出したメモリーをパソコンにコピーした。

 やはり撮影した画像はクリヤーで、何も問題ない。

 メモリーには生前の克の画像も入ったままだった。

 パソコンにもコピーはとってあるが、あんな事があってどうにも消去する気になれないでいたのだ。

 このメモリーカードが一杯になったら、そのまま封印して、新しいメモリーを使おう。斗馬はそう思っていた為、今のカードから克の画像を消す気は無かった。

 何日かして、斗馬は再びカメラを手にした。

 明日のサークル合同撮影会に来てくれと頼まれたのだ。

 合同撮影会とは、他の大学の……もちろん主に女子大だが……カメラサークルと合同で撮影会をする。という名目の合コンだ。言い方を変えているだけに過ぎない。

 まあ、写真撮影はとりあえず行うのが恒例となってはいるが……主旨はその後の飲み会にある。

 斗馬はカメラバッグからカメラを取り出して、この前のファインダーのシミの事を思い出した。

 ……そう言えば、あのシミどうなった? 自然に消えてればいいのだが。斗馬はそんな都合のいい期待を込めてカメラの電源を入れた。

 背面の液晶表示がONになったままだった。が、それを見て斗馬は驚愕した。

 この前の小さなシミ。あれが大きくなっていたのだ。しかもよく見ると、朧気な人の顔の形をしているように思えた。

「なんだ、これ?」

 斗馬は恐る恐る、液晶画面を見入った。そして、ファインダーも覗いてみる。

 同じく大きくなったシミは人の顔の輪郭を映し出していた。

 何となく目鼻があるような、そんな気さえした。

「どうなってるんだ?」

 部屋の中に向って斗馬はカメラを構えてみたが、何処にカメラを向けても、ファインダー内の中央に浮かぶシミは変わらず存在していた。

「まいったな……邪魔でしょうがない」

 念のため部屋の中を試し撮りしてみたが、プレビュー画像はやはり問題無かった。写真は正常に写るのだ。一体どの部分に存在するシミなのか……斗馬には検討が付かなかった。



 翌日斗馬は仕方なくシミのあるカメラを持って家を出た。

 背面の液晶画面をOFFにして使っていたので、誰にも奇妙なシミを気付かれる事は無かった。

 主旨である飲み会を早めに切り上げた斗馬は、アパートへ帰ると今日の撮影分をパソコンに取り込んで、再びメモリーをカメラに戻すと、撮影モードに切り替えてみる。

 ファインダーを覗いた斗馬は、言葉を失った。

「………………」

 ファインダーから慌てて目を離すと、液晶画面をONモードに切り替えた。

 撮影モードの画面の真ん中にぼんやりと浮かぶ姿。それは、もうどう見ても人の顔だった。昨日、いや今日の昼間見た時よりも明らかに鮮明になっている。

 まだ輪郭ははっきりしないが、目鼻と口が完全に浮き出ていた。想像力のない人間が見ても、それは一見して人の顔だと判るだろう。

 しかも、斗馬にはそれが誰の顔なのか直ぐに判った。

 髪の毛もまだ朧気だったその浮き出た顔は、確かに草加克のものだった。

「どういうことだ……」

 斗馬は思わず意味がないと知りながら、カメラの正面や側面を舐めるように見入った。

 外観は何の問題も無い。

 しかし、液晶画面とファインダーの中には確かに克の顔が浮き出ている。

 ……液晶画面の焼き付き現象か? いや、ありえない。この顔は何も無かった場所に自然に浮き出て来たのだ。それにファンダーの中はどうなる?

 斗馬はどうにも気味が悪くて、カメラの電源を切った。

 電源を切っても、ファインダーの中には顔が浮かんだままだった。

 


 その夜遅い時間にも関わらず、何日かぶりに裕美子を部屋に呼んで、一緒にベッドで戯れた。まるでカメラの映像を無理やり忘れる為のように、彼女を激しく抱いた。

「ちょっと、痛いよ」

「ご、ごめん」

「どうしたの? 斗馬くん、今日は何かへんだよ」

 彼の腕の下で彼女が言った。

「そんな事無いさ」

 斗馬はそんな裕美子の言葉を振り払うかのように、彼女の身体に唇を這わせた。



「人って、死んだら何処へ行くのかな」

 ベッドの上で天井を見上げた斗馬が呟いた。

 裕美子は少々疲れたようで、気だるそうな瞳で彼を見た。

「斗馬くんは、天国とか信じてるの?」

 馬鹿にした言い方ではなかった。

「いや、そんな事じゃなくて……」

 斗馬は言いかけてそれを飲み込んだ。

「あたしは、何も無いような気がする。だから何処かへ行くとか、そう言うのは無いんじゃないかと思うんだ」

「何処にも行かないって事?」

 斗馬の問いに、裕美子は首を横に振った。

「全部無くなるって事。何もなくなるんだから、何処にも行きようがないでしょ」

「そうか」

 斗馬はそう言って、頭の後ろで両手を組んだ。

 裕美子は、彼の片方の腕に自分の頭を乗せると、猫のように小さく喉を鳴らす真似をした。




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