エピローグ
エピローグ
「もっと早く動く!」
凛とした、鋭い声が現場に響き渡る。
新たに彼女の目印となった、桜色の髪を揺らしながら。
「もう勘弁してくれよ、フィー」
注意された小太りな男が、フィーへと懇願の瞳を向ける。しかし、この程度の事で音を上げられたら堪らないのだ。
「あと三往復だ! その無駄な体をさっさと引き締めろ!」
人差し指を男へと向けて、鋭く、それでいて冷たく言い放つ。
本日のノルマを達成するために。ただそのために。
次の瞬間には男達の悲鳴が鳴り響く。その中に、悪魔だの、鬼だの、という言葉が混じっている気がする。しかし、それは気にしない。
そう言われるのが、自分の仕事なのだから。
仕事の進捗、そして人材の管理。ついでに仕事の量も管理しているのだから。
「今日もきっちりと絞っているな」
背後から聞こえたのは、低い声。
声に反応して振り向いた先には。
固い岩を踏みしめながらのっそりと歩いて来る、親方の姿があった。
「それが仕事ですから」
柔らかい笑顔を向けて、返すフィー。
「俺はあそこまでは言わないからな」
親方もフィーと同じ笑顔を浮かべて、無精髭を擦る。
「適材適所です。私には――こういう仕事が向いている。それだけです」
再び鋭い視線を、結晶を運ぶ男達へと向ける。
「それなら、俺は適した事をするか」
そう呟いて、親方は台車を両腕でしっかりと握り押していく。その上に結晶を載せて。
「私は生きていく。精一杯――彼女と共に」
フィーは想い人の笑顔を思い浮かべて呟く。晴れ渡ったような、柔らかい笑顔を浮かべて。
「終わり」
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