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赤い月  作者: 粉雪草
セシル編
10/10

エピローグ

―エピローグ―


 世界を、ストレアの街を照らすのは赤き輝き。

 流れ出る鮮血を思わせる輝きをその身で受けているのは、少年とも少女とも呼べない一人の中性体だった。

 流れる風が一度、中性体を示す真っ白な髪を揺らす。何色にも染まってしまう髪を。

「ようやく――僕は進める」

 セシルはゆっくりと瞳を開けて呟く。

 その声はどこまでも穏やかで、それでいて揺れない言葉だった。すでにセシルの心には迷いはないのだから。ずっと変わる事を恐れ、温もりが遠くなる事が恐ろしかった。

 でも、今は違う。

 二人は変わらず側にいてくれる。セシルがどちらを選ぼうとも。笑顔で迎え入れてくれるから。

 変われなかった理由は、ずっとセシルが二人に伝えなかったからだった。伝えてしまえばこんなにも簡単に決意出来たというのに。

 しかし、それはただセシルが幸運だったからである。他の場合では、もしかすれば選択出来る余地すらないのかもしれない。揺るがぬ決意を持って変わったとしても、受け入れてもらえないのかもしれない。

(二人が優しいから……僕は選べた)

 心中でジーナとアニタに感謝する。

 その想いを深く、深く心へと刻み込む。揺るがぬ意志へと変えるために。

 固まった意志は空へと昇る。そして、意志に応えた光がセシルを包み込む。

 ――望むべき姿へと変えるために。

 光がセシルを包んだのは一瞬だった。一度、二度瞬きをする間の僅かな時間だっただろうか。

「あんまり変わんないねぇ」

「でも、キラキラして綺麗!」

 光が晴れた瞬間に二人の声が背に届く。

 しかし、彼女達が何を指して述べているのかはセシルには分からなかった。小首を傾げて背を振り向くと。

「ここ」

 ジーナが自身の真紅の髪を指差していた。

「髪?」

 訝しんで頬にかかっている髪に触れるセシル。

 掴んだ髪は赤き光りを帯びて輝く。一瞬、赤銀の髪かと思ったが、よく目を凝らすと自身の髪は眩しい銀髪だった。あまり変わらないというのは白髪と銀髪を比べての事なのだろう。

 輝き具合がまるで違うような気がセシルにはする。しかし、大雑把なジーナは特に気にしてはいないのだろう。

(まあ、いいかな)

 変に気にされるよりかは幾分かましなような気がするのである。

「改めて――よろしく」

 セシルは力を増した全身に違和感を覚えながらも、力強く一歩を踏み出す。地を踏みしめた両足は自身が思っているよりも逞しく、それでいてしっかりとしていた。

 まるでセシルの今後が安泰だと、そう言うかのように。

「ああ。といってもなーんにも変わんないけど」

「よろしくー」

 言葉を受けた幼馴染は陽気に笑い、アニタは迷いが晴れたセシルを喜んでくれた。

 広がっているのは変わらない日常。

 しかし、それは掛け替えのないもの。人によっては刺激のないつまらない日常に見えるのかもしれない。それでもセシルは満足だった。

 心には抱えきれない程の幸せが溢れていたから。


「終わり」



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