エピローグ
―エピローグ―
世界を、ストレアの街を照らすのは赤き輝き。
流れ出る鮮血を思わせる輝きをその身で受けているのは、少年とも少女とも呼べない一人の中性体だった。
流れる風が一度、中性体を示す真っ白な髪を揺らす。何色にも染まってしまう髪を。
「ようやく――僕は進める」
セシルはゆっくりと瞳を開けて呟く。
その声はどこまでも穏やかで、それでいて揺れない言葉だった。すでにセシルの心には迷いはないのだから。ずっと変わる事を恐れ、温もりが遠くなる事が恐ろしかった。
でも、今は違う。
二人は変わらず側にいてくれる。セシルがどちらを選ぼうとも。笑顔で迎え入れてくれるから。
変われなかった理由は、ずっとセシルが二人に伝えなかったからだった。伝えてしまえばこんなにも簡単に決意出来たというのに。
しかし、それはただセシルが幸運だったからである。他の場合では、もしかすれば選択出来る余地すらないのかもしれない。揺るがぬ決意を持って変わったとしても、受け入れてもらえないのかもしれない。
(二人が優しいから……僕は選べた)
心中でジーナとアニタに感謝する。
その想いを深く、深く心へと刻み込む。揺るがぬ意志へと変えるために。
固まった意志は空へと昇る。そして、意志に応えた光がセシルを包み込む。
――望むべき姿へと変えるために。
光がセシルを包んだのは一瞬だった。一度、二度瞬きをする間の僅かな時間だっただろうか。
「あんまり変わんないねぇ」
「でも、キラキラして綺麗!」
光が晴れた瞬間に二人の声が背に届く。
しかし、彼女達が何を指して述べているのかはセシルには分からなかった。小首を傾げて背を振り向くと。
「ここ」
ジーナが自身の真紅の髪を指差していた。
「髪?」
訝しんで頬にかかっている髪に触れるセシル。
掴んだ髪は赤き光りを帯びて輝く。一瞬、赤銀の髪かと思ったが、よく目を凝らすと自身の髪は眩しい銀髪だった。あまり変わらないというのは白髪と銀髪を比べての事なのだろう。
輝き具合がまるで違うような気がセシルにはする。しかし、大雑把なジーナは特に気にしてはいないのだろう。
(まあ、いいかな)
変に気にされるよりかは幾分かましなような気がするのである。
「改めて――よろしく」
セシルは力を増した全身に違和感を覚えながらも、力強く一歩を踏み出す。地を踏みしめた両足は自身が思っているよりも逞しく、それでいてしっかりとしていた。
まるでセシルの今後が安泰だと、そう言うかのように。
「ああ。といってもなーんにも変わんないけど」
「よろしくー」
言葉を受けた幼馴染は陽気に笑い、アニタは迷いが晴れたセシルを喜んでくれた。
広がっているのは変わらない日常。
しかし、それは掛け替えのないもの。人によっては刺激のないつまらない日常に見えるのかもしれない。それでもセシルは満足だった。
心には抱えきれない程の幸せが溢れていたから。
「終わり」




