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神様と閻魔様  作者: 玲那
2/5

「天国と地獄」



漫画…それが私をずっと支えてきたもの…

絵を描くことが好きだった…

皆をただ、私の描く絵で幸せにさせたかった――――――

―――――――…


「那留!?大丈夫だった!?」

「ッッ!!」


何を今更。どうせ、わざとやった癖に。どうせ、心配なんて微塵もしてない癖に―――――そう、那留は捻くれた考えしか出来なくなった。


「ごめんね那留…ごめんね…」


大粒の涙を流す月を前にしても、那留は許す気にはなれなかった。

それほど、那留にとって漫画家になる夢は大きかったのだ。


「今更…何よ…(ボソッ」

「え…?どうしたの那留…」


「謝る位なら、私の右手を返してよ!!」


ただ、自分の夢を潰されたことが悔しかったのだ。

ただ、自分の希望がふと無くなったことが許せなかったのだ。

ただ、小さな小さなすれ違いが積み重なって誤解を生んだだけなのに。


「今更なんなの!?ホントうざいんだけど!!このっ偽善者ッッ!!

マジうざいマジキモイどっか行け死ね馬鹿!!二度と私に近づかないで喋りかけないで!!」

「那留…那留ーーーーーー!!」


走っていった那留を追いかけることも出来ず、ただ廊下で涙を流し続けることしか、月は出来なかった。

今更、無駄だと分かってしまったから。


小さいころから絵を描くことも漫画を読むことも大好きだった那留。

月はいつも横でニコニコと那留が絵を描くところを眺めてた。


「大きくなって漫画家になったら、誰よりも先に、月にサイン付きの絵をあげるね(ニコッ」


そう、那留は言ったのだ。指切りをして約束したのだ。


その約束を破らせる事をしてしまったのは自分だ…と…


――――――――――――――…


「死ね…月死ね…死ね…死ね…」


何故、私の将来を奪ったあいつが、のうのうと生きているのだろう。

何故、あんな最低な奴に沢山味方が、友達がいるのだろう。

何故、何故、何故…


拳を握ると激痛が走った。

「っ…」


激痛が走ったのは右手。


「そっか…ホントなんだ…夢じゃぁ…なかったんだぁ…」


何重にも頑丈に包帯が巻かれた右手。


「夢だったらよかったのになぁ…ホントは右手が無事だったとかなら、良かったのに…」

また絵を描いて、夢へ向かって一歩進んで。

そんな充実した毎日を過ごせるのがどれだけ幸せだったことか。


「なん…でっ…私はもう…漫画家になれないのっ…」


ただ、漫画家になる為だけに生きてきた那留。

漫画家を諦めるのが、どれほど辛いことか。


「漫画家になれないくらいなら、死んだ方がマシよ…」


そう那留は呟いて、屋上へ続く階段がある方向へと歩いて行った。


―――――――――…


「那留…ごめんね那留…」


那留の夢を潰してしまった。那留を壊してしまった。


罪悪感に月は蝕まれていた。


教室のベランダ側の窓から、月は外を眺めていた。――――



ふと目に入った『物』

『物』と言う言葉は適切ではないかも知れない。いや、不適切だ。

言うなら『もの』



それか『者』


ゆっくりと落ちてくる『もの』

ゆっくりと目の前を通り過ぎる『もの』

ゆっくりと落ちて行く『もの』


ガラッ

ベランダへと続く扉を開けてベランダへ飛び出す。


「那留ッッ!!」

必死に手を伸ばす。

掴まれ。とでも言うように。


伸ばされた手を握ろうともしない那留。


ただカッと目を見開いて、一言。


「死んでも許さない」


そう言って、落ちて行った。



―――――――グチャ


「キャッきゃあああああああ!!」


「そ…んな…」


ペタン


「私のせいだ…私のせいだ…」



―――――――――…


真っ暗。その言葉が最も似合う位黒い空間。

その癖ほんのり赤くも見える。


「ここ…どこ…?」


辺りは何も見えない。一人ぼっちの様な気がして、怖かった。

「ここは、地獄だよ」

「えっ!?」


後ろから声がして、振り返る。

それに、地獄!?


「大きな恨みを持って自殺したでしょ君ー」

「え…まぁ…はい…」

「そんな子は地獄に来るのだよー」

「そ…そうなんですか?」

「そうだよー」


地獄って、もっと怖そうな感じっぽいイメージだったのに、この人の口調、怖くないなぁ。と、どこか安心た那留。


「貴方は…誰ですか…?」

「それは後でのお楽しみさー。さぁ、こっちにおいで」


その子は、那留に気付かれないようにニヤリと笑った。


――――――――――…


「那留…ごめんね…私のせいだね…ホントにごめんね…」


『死んでも許さない』

その言葉が重くのしかかる。


那留の夢を奪ったのも、結果的に那留を自殺に追いやったのも、自分だ。と。

月は罪悪感に蝕まれた。


那留に恨まれても仕方ない事を自分はしてしまったのだ。と。


那留の死から2週間たった今でも、月は泣き続けていた。

大切な友達が、親友と喧嘩(?)して、仲直りの間も無いまま亡くなってしまったのだから。


月は、いつも通り横断歩道を渡った。


「月ッッ!!危ない!!」


そんな声も届かなかった。届く暇も無かった。


キキーーードンッ――――――


「月ぅううぅうぅぅううぅぅ!!」


辺り一面を真っ赤に染めて、月は逝ってしまった。


―――――――…


「ここ…どこ…?」


さっき、車に轢かれて…?


辺り一面真っ白な世界。

まるで自分がすんでいた世界とは違う『世界』


「天国へようこそ!!」

「は?」


目と鼻の先に、キューピーちゃん位の大きさの、キューピーちゃんの様な格好をした子がいた。

決定的にキューピーちゃんと違うのは、背中から天使の羽根の様な羽が生えているのと、天使の輪があること。


「私たちは、天使です」

「は…はぁ…」


天使とは、こんな感じなのか。想像と殆ど同じだな。天国も、天使も想像通りだ。と月は思った。


「こっちこっち。おいでよー」


天使に引っ張られ、奥へ奥へと歩いて行く月。


何故、私がここに居るだろう。那留に酷いことをした私が、何故?


もしかしたら那留もここに居るだろうか。

私がここに居る位だ。


那留もここに居る可能性だってあるだろう。


居たら、謝ろう。

謝って謝って謝りまくろう。

許してもらえないだろうけど、謝りたい。

あわよくば仲直り出来たらな。


そう希望を胸に抱いて、月は天使の後をついていった。

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