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七夕の奇跡  作者:
1/1

願い人


人が夢を見るのをやめた。

古ぼけた町並み、続く田舎道。

穏やかな毎日、平凡ともいうのかもしれない。

 

鐘の音が鳴り、ぞろぞろと人が校門から出て行く。

学校を終えて帰る学生も覇気がない。

この村では若者はまっすぐ決められた道を歩かねばいけない。

農家の家は農家に。漁師の子は漁師に。

だから誰も夢を見なくなった。


川原と青い空が続く田舎道。

学校帰りにふと、良い天気だなと空に目をやる少年。

少年の名はアルカ。


空を見上げた瞬間。アルカの真上にある空が光った。

何か物体が落ちてきて、徐々に速度を増していく。

わたわたと焦りながら、受け止めたほうがいいのだろうかと考えている間に、それはもうアルカの目の前に来ていた。

少女だった。


少女はふわりと地に降り立った。

白い和服を着ていて、髪には星のマークの髪飾りをつけている。

少女はふうとため息をつき、閉じていた目を開いた。

「・・・・・・はっ」

少女は目を丸くさせ挙動不審にそわそわと体を動かす。


アルカは驚きのあまりに声も出ない。

空から人が降って来るのは、物語でしかありえないと思っていたからだ。

呆然としているアルカに少女は恐る恐る近付いた。

そしてアルカの目の前で、手を何度か振りかざした。

「あのー私のこと見えてますか?」

出るか出ないかの掠れた声でアルカは答えた。

「うん……見えてる」

少女はムンクの叫びのように顔をゆがませた。

それが少女、牡丹(ぼたん)との出逢いだった。



一言でいうと牡丹という少女は変わっていた。

牡丹が言うには、使命や任務を携わってこの地に降りてきた。

人間ではなく別の世界から来た者だと。

普通の人間には見えない筈だと牡丹は語る。

その話を聞き、だから変に動揺していたのかとアルカは納得した。

「その使命とやらは具体的に何をするの?」

待ってましたと言わんばかりに、牡丹は目を輝かせる。

「人々の願いを天に届けるのです!」

「願い?」

「そうです!ある国の風習なのですが、竹の笹に紙を飾るのです。その紙に叶えたい願いを書くと願いが叶うと言われてるんです。その願いを天に届けるのが私の役目なのです!」

えへんと牡丹は腰に手をおく。

変わった者もいるものだとしげしげ牡丹を見つめた。

「そっか、頑張ってね」

「はい!えと、早速ですがあなたのお名前と願いをお聞かせ下さい」

「名前はアルカ、願い・・・・・・願い?」

牡丹は不安そうにアルカを見つめる。

「願い事ありませんか?」

「そういう事、真剣に考えたことがなかったから」

「ではまた次の機会にお聞かせ下さい。また聞きにやって参りますので」

牡丹はにこっと笑い、深々と会釈をしてどこかへ歩いていった。


牡丹の背中を見送りながら、アルカは少々の違和感を感じずにはいられなかった。

人生に絶望したつもりも、満足しきった訳でもない自分が、とっさに浮かぶ願いもないことに。

意外と自分自身が分からないこともあるのだとアルカは感じた。


次の朝、学校に着くと校門に昨日の少女がいた。

次々に学生に声をかけていく。手にはノートとペンを持って。

誰も振り向きもせず通り過ぎていく、そのたびに焦った様子で意気込んだり、落ち込んだりしている。

人に見えないってことは、声も聞こえないのだろうか、それってかなり致命的なのではないかとアルカは感じた。

牡丹に近付いて声をかける。

「牡丹さん、おはよう」

「あっ!アルカさん。おはようございます!」

くるっと振り向き、満面の笑みを浮かべる。

「早速だけど。声も聞こえないんじゃ、願いを聞くことすら難しいんじゃないのかな」

がくーっとうなだれる。

「はいぃーそうですよねぇ・・・・・・こんなに早く緊急事態がくるなんて思ってませんでした」

うつむいている牡丹に、アルカは声をかける。

「あのさ、手伝うよ」

「はい?」

「俺で良ければ手伝うよ」

段々と牡丹の目に涙が溜まってゆく。

「ほ、本当ですかぁ~~!!ありがとうございますっ」

ペコペコとお辞儀をし始め、それでは足りないのか土下座までして頭を何度も地面につけた。

結果、おでこは泥だらけになった。

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