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第4話 欧州へ

Uボード等のドイツ艦の襲撃を警戒しながらのインド洋航行も無事に遂げ、遺欧艦隊はスエズ運河に入った。


スエズ運河-この運河は日本にとって恩恵が深い。

日露戦争で活躍した富士級、敷島級戦艦をはじめ、多くの艦がこの運河を通って日本にやって来た。

そして何よりも、日本にとって最大の脅威となるロシア・バルチック艦隊が、同盟を結んでいたイギリスの妨害で、

この運河を通る事が出来ず、アフリカ大陸を一周する航海を強いられた。

この長距離の航行による疲弊が、日本海海戦の大勝利の一因になったのだ。

日本にとっては救世主がごとき運河なのである。


この運河は又、スエズマックスという規定がある通り、航行する船舶に制限を掛けている。

その一つに、喫水が浅いので、それが深い船は通れないという一項がある。

当然、水中を潜ってのUボートの攻撃など不可能であり、運河の管理はイギリスが実権を握っているので、

通過航行中は、まずは一安心出来る。

しかし、この運河を出れば、いよいよ欧州の戦場へと飛込む事になる。

その前に英気を養うつもりなのか、艦隊には穏やかな空気が流れていた。



摂津も甲板で、流れ行く景色を眺めていた。

それは正直あまり面白い景色ではなかった。砂浜の様な景色が続いているからだ。

彼女に気付かず通り過ぎていく乗員たちの話から、その砂浜が砂漠というのだと知った。


「よっ 此処に居たのか」

「あっ 多聞さん!」


艦魂である摂津を、唯一見る事が出来る山口多聞少尉が、彼女に気付いて近寄って来た。

「このスエズ運河を抜ければ、いよいよ欧州(ヨーロッパ)だな」

「うん、そうだね」

「そして、そこには戦いが待っている・・・ 摂津は戦うのが好きか?」


山口にいきなり訊かれて、摂津はきょとんとした後、憤慨して答える。


「・・・あ、あったりまえでしょ! 私は戦艦の艦魂だよ! 戦う為に生まれてきたんだもん!

多聞さんこそどうなの? 嫌いって言うんじゃないでしょうね?」

「もちろん俺だって戦う武士(もののふ)を志し、海軍兵学校を卒業した身だ。嫌いといったら嘘になる。

けれども、やたら無闇に戦って敵兵を多く殺せば良いという訳じゃないんだ。

いかに味方の犠牲を最小限に抑えつつ、相手の戦意を喪失させるかが大事だと俺は思う。

一番良いのは、戦わずに和解する事なんだけどな。これがなかなか巧くいかない」

「そうだよ! そんな弱腰じゃ駄目だよ!」


ムキになる摂津を、山口は優しく諭す。


「しかしな、摂津。この戦わずして和解するのに、お前ら戦艦は重要な意義を持っているんだぞ」

「え? 私たちが? それ、どういうこと?」

「戦艦を建造するのには膨大なお金と労力が必要なんだ。それこそ国家の財政を左右するくらい。

そんな苦労して建造される戦艦は、いわばその国の国力の象徴だ。

そして、そんな国力の象徴である戦艦を数多く持っている国は強いという事になる」

「そんなの当たり前じゃない! 多くの戦艦があれば、戦って勝つに決まっているよ!」

「俺が言いたいのは、そうじゃない。

多くの戦艦を持ってる国を相手に戦えば、負けるに決まっているから、最初から戦わない。

そうすれば、双方とも殺しあわずに済み、国家は安泰だという事。

難しい言葉で言えば抑止力というのだが、その為にも戦艦の存在というのは意義がある。

もっとも、そんな戦いたくないと恐れられる国力の大きな国に成るには、

やっぱり戦って領土をぶん獲るかしかないから、戦いは避けられないという矛盾はあるのだけどな」

「ふ~ん、難しいんだね・・・」


見た目も頭の中も16歳程度の少女である艦魂の摂津は、山口の話は難しすぎたみたいだ。

適当に相槌を打つ。


「ははっ 今此処で二人で話し合ってもどうなるもんでもないけどな。それより、これでも食うか?」


山口は饅頭を取出すと、摂津に与えた。

彼は配給される食事だけでは物足りず、自腹を切り、よく酒保で饅頭やあんパンを買って食っていた。

摂津と初めて出会った時も、実はあんパンでも食おうと甲板に上がって来たところだった。

この山口の大食漢は有名で、幕僚になった時の会食でも、山本五十六連合艦隊司令長官は、

愛弟子である彼の為に、本来一枚であるステーキを二枚用意させたという逸話があるほどだ。


「うん、ありがとう!」


摂津は嬉しそうに早速饅頭にかぶりつく。

しかし、艦魂が物を食べるという行為は、実はあまり意味が無い。

艦に宿る艦魂は、その艦の状態に直接左右される。

つまり、艦の調子が良ければ艦魂も晴れやかだし、艦の調子が悪ければ艦魂も鬱になる。

もちろん戦闘で艦が損傷すれば、艦魂も身体の該当する部分が負傷する。

そして、運悪く撃沈されれば、艦魂もその儚い生涯を閉じる事になる。

それが最も明確となる場所は、機関(エンジン)といって良いだろう。

機関(エンジン)が順調に稼動していれば、艦魂の調子も良く、

相乗効果もあって、スペック以上の速度での航行も可能だ。

逆に燃料等が欠乏していれば、艦魂の具合も悪くなる。

その意味では、燃料となる石油や石炭が艦魂の食べ物とも採れるが、

それではロボットやアンドロイドといった機械体と同一視されかねず、あまりに可哀想である。

それに、人間と同じに食事をする事によって艦魂が晴れやかな気分になれば、

艦の状態を僅かながらでも向上出来るので、まるっきり意味の無い訳ではないのかもしれない。



スエズ運河を通り、地中海に出た遺欧艦隊は、4月5日、マルタ島のイギリス海軍基地に入港した。

しばらくは、この地を拠点に活動する事になる。

折から、遺欧艦隊の到着を待っていたかの様に、ドイツは無制限潜水艦作戦の実施を宣言。欧州に新たな緊張が走る。


機を狙っていたとされる件ではもう一つ。

宣言がなされてから間もなくの5月7日、イギリス船籍の客船ルシタニア号がドイツのUボートの

攻撃を受けて撃沈され、1959人の乗客・乗務員の内、1198人が犠牲になるという事件が起こった。

この犠牲者の中には128人のアメリカ人が含まれていた事から、アメリカは直ちに同盟国に対し、宣戦を布告。

戦艦を中心とした艦隊を差向ける事を発表する。

しかし、アメリカのこの一連の行動は、同国が戦争に参加したいが為の自作自演だったのではないか?

という疑惑が直後から起っていた。

この疑惑を裏付けるものとして、無制限潜水艦作戦宣言の直後と、あまりにもタイミングが良すぎる事、

ルシタニア号を撃沈したというドイツUボートの声明が無かった事が挙げられる。

この疑惑説を強く推したのが、未来から来た原子力護衛艦「あそ」の元艦長である冬月優(ふゆづき すぐる)中将だ。

素性を明かせない彼は、一個人の談話として次の様に述べた。

「アメリカという国は、戦争に介入する為には、自国民を欺き、犠牲にする事を平気でやる国だ。

それでいて被害者面をし、なにが正義感に溢れた国といえるのか。

86年後の2001年9月11日、アメリカは、この過ちを再び繰返す事になる」


そして、派遣する艦隊も明らかに日本遺欧艦隊を意識したものといえた。

六隻の戦艦の内、フロリダ級の二隻「フロリダ」「ユタ」は30.5cm砲連装5基、

ワイオミング級の二隻「ワイオミング」「アーカンソー」は同じく連装6基の砲塔を持ち、

これら四隻は、河内級と同等の戦力である。

更に残りの二隻、最新鋭ニューヨーク級の「ニューヨーク」「テキサス」に至っては、

35.6cm砲連装5基と、これは建造中の扶桑級と同等なのである。

金剛級巡洋戦艦を出し惜しみ、河内級戦艦二隻以下、防護巡洋艦と駆逐艦に留まった日本遺欧艦隊を

嘲笑う内容だったのだ。

艦魂に対する足枷を又一つ。今度は食事は意味が無いという件。

他の先生方の作品では、艦魂が平気でお茶会やらパーティーを開いている中、

これはどうしたものやら。


艦魂については、私の独自の解釈で行ってますが、暗黙の了解があったり、

これは冒涜だと思われたら、なんなりと、御意見いただければ幸いです。

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