第1話 出航
タイトルにもあります通り、この作品は当方のサイトで連載中の「時空の波涛EX」を補完する目的で執筆するものです。しかし、この作品だけ読んでも解る様に心掛けます。
1915年2月17日 呉軍港。
軍艦行進曲が高らかに鳴らされる中、二隻の軍艦が出航の時を迎えていた。
接岸する埠頭では、見送る者と見送られる者が隊列を組み、壮行会といった趣きの行事が
盛大に執り行われている。
一方、二隻中の一隻の後部甲板でも、別の一団がこちらは極く少人数でひっそりと、
やはり壮行会が執り行れている最中だった。
その者たちはいずれも、埠頭の連中と同じく濃紺の海軍第一種軍装を身に纏っていたが、
不思議な事に顔立ちや体躯は十代後半の少女にしか見えなかった。
「それでは行って参ります。我々が欧州へ派遣の間、皇国の守護を宜しくお願いします」
そう言って敬礼する少女は黒く長く伸びた髪を持ち、
「お任せ下さい、河内殿。そして摂津殿。大日本帝国が誇れる武功を期待しております」
と、返礼する少女は、いくらか長身でウェーブのかかった金髪をしていた。
「お姉ちゃんも金剛も、な~に気取っちゃっているのよ。
大丈夫だって。ちゃんとがんばってやってくるから! だから金剛も比叡も留守番お願いね!」
二人に割って入った彼女は、黒髪の少女と良く似た顔立ちをしている。
ただし、同じ黒髪でもこちらはクセっ毛が多数で、服装もどことなくだらしない。
「こら摂津! 大事な行事に茶々入れない!」
「だって、私たちの姿は誰にも見えないんだよ。どうやろうと勝手じゃん」
「たとえそうであっても、私たちとて帝国海軍のはしくれ。節度ある態度をとってもらわないと
困ります。ましてや私たちは、海軍創設以来師と仰いできた英国に向かうのです。
その地で帝国の恥となる様な行為を・・・」
そこに、手をパンパンと打ち、微笑みながら別の少女が割って入る。
こちらは金髪の少女と良く似た顔付きだが、髪の色は黒く、後で束ねてポニーテールにしている。
「はいはい、姉妹喧嘩はそれまでにしましょう。
河内殿、妹の摂津殿とて立派な海軍軍人。そのあたりの事情は充分わきまえられているはずです。
私や姉の金剛に代わっての任務の遂行、よろしくお願い致します」
「比叡の言う通りです。本来なら私どもが行かねばならないところなのですが・・・」
「駄目だよ。金剛も比叡も最新最強の巡洋戦艦なんだよ。
いくら英国の頼みだからって、おめおめと行かせられますかって。
だから私やお姉ちゃんが代わりに行くの!」
「その通りです。金剛殿も比叡殿もこれからの帝国になくてはならない艦材です。
万が一の事もあってはなりません。欧州派遣の任は私たちにお任せ下さい」
金髪側の姉妹は、もう一組の姉妹の歩調が合ってきたのに安堵し、
「帝国の守りはお任せ下さい。私たち姉妹の他、まもなく竣工する二人の妹、榛名と霧島、
更には多くの先輩方と共に立派に務めてまいります」
「御二人が欧州に行かれれば、私の故郷を見る機会もありましょう。
どの様な国なのか確かめてきてください」
「そうだね。金剛が生まれた国だものね。今から楽しみだよ。ねえ、英国ってどんな国なの?」
「ほらほら攝津、私たちは親善航海に行くのではありませんよ。その様な浮かれた気分では・・・」
彼女は能天気な妹に呆れた。そんな彼女を見て、金髪の少女は微笑みながら話を続ける。
「さあ? 私も竣工して間もなくこの大日本帝国に参りましたから、詳しい事は知らないのですよ。
御二人には私の分まで見てきていただき、土産話に聞かせて下されば嬉しいです。
それから、故郷には私も見た事の無いもう一人の妹がいるはずです」
「へえ~、金剛には比叡や榛名、霧島以外にも妹がいるんだ。何て名前なの?」
「たしか『タイガー』といったはずです」
「ふ~ん、タイガー、虎さんかあ・・・ うん、会ったら宜しく言っておくよ」
四人の話が尽きない中、埠頭でも動きがあった。
「壮行会が終わって乗艦が始まったみたいよ。摂津、私たちも仕度しないと。
金剛殿、比叡殿、後は宜しくお願いします」
「はい、御武功を!」
四人の少女はもう一度敬礼を交わすと、その身は光に包まれ消え去った。
古来より人の作りし舟には魂が宿るという。
その魂は例外無く乙女と言っても良いうら若き女性の姿を模し、
作りし舟が加速度的に巨大化した今、艦魂と呼ばれていた。
河内と攝津、金剛と比叡は、同じ名を持つ戦艦の艦魂姉妹なのであった。
その姿は、余程に波長の合った極く僅かな人間にしか見えない。
そんな貴重な人間が、乗艦する士官の中にあった。
後に機動部隊の重鎮として名を成す海軍提督、山口多聞その人である。
もっとも当時の彼は、一介の少尉に過ぎなかったのだが。
欧州派遣艦隊に参加した後の有名提督は、山口多聞以外にも居たはずですが、
失念してしまったので、艦魂が見えるのは彼だけとします。