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転生した俺、前世の記憶があると家族に話したら家を追い出されました ~水・風・光の三属性しか使えない俺ですが、氷と雷を生み出して最強を目指します~

作者: レイヴ
掲載日:2026/08/30

第一話 前世の記憶があると話しただけなのに



 父の剣に、雷が落ちた。


 青白い光が刀身を駆け抜け、乾いた破裂音が訓練場に響く。


 次の瞬間。


 父の姿が消えた。


 いや。


 消えたように見えただけだ。


 一瞬で十メートル以上を詰めた父――ガルド・アルヴェインが、訓練場の中央に置かれた巨大な岩へ剣を振り抜く。


 一拍遅れて。


 岩が、ずれた。


 上半分が地面へ落ちる。


 轟音。


 土煙が舞い上がった。


「……やっぱり父上が使うとおかしいな」


 思わず呟いた。


 父上が振り返る。


「何がおかしい」


「威力ですよ」


「お前が作った魔法だろう」


「作ったのは雷です。岩を真っ二つにしろとは言ってません」


「剣とは、そういうものだ」


「絶対違うと思う」


 父上が笑った。


 俺も笑う。


 昔から、こんな感じだった。


 俺の父、ガルド・アルヴェインは王国北東部の小さな領地を治める領主であり、同時に王国でも指折りの剣士でもある。


 若い頃には王国騎士団に所属し、剣術大会で優勝したこともある。


 そして今。


 父上にはもう一つの名がある。


 ――〈雷装剣士〉ガルド。


 その原因は。


 俺だった。


「もう一回やってください」


「まだやるのか?」


「右足への雷が少し強いです。肩は逆に弱い。剣への流量も少し落とした方がいいかも」


「見ただけで分かるのか?」


「なんとなく」


「相変わらず気味が悪いな」


「息子に言います?」


「褒めている」


「便利な言葉だなぁ」


 父上が再び剣を構える。


 俺は右手を上げた。


 魔力を指先へ集める。


 風。


 光。


 二つを重ねる。


 バチッ。


 青白い雷が指先で弾けた。


 この世界の魔法には、六つの属性がある。


 火。


 水。


 風。


 土。


 光。


 闇。


 平均は二属性。


 三属性なら優秀。


 四属性ともなれば〈賢者〉と呼ばれるほど希少だ。


 俺は三属性。


 水、風、光。


 十分に恵まれている。


 ただ。


 俺は昔から一つだけ不思議だった。


 どうして。


 魔法まで六種類しかないことになっているんだろう。


 水は冷やせば凍る。


 雷は火じゃない。


 霧も雲も水からできている。


 前の世界では、子供でも知っていた。


 だから十二歳の頃、試しに水を冷やし続けてみた。


 凍った。


 母上に見せたら喜んでくれた。


 嬉しくなって夕食のスープまで凍らせたら怒られた。


 次に挑んだのが雷だった。


 こっちは簡単じゃなかった。


 そもそも前世の俺は科学者でも何でもない。


 雷は電気。


 雲の中で何かがどうにかなって、電気が溜まって、最後にドーン。


 その程度だ。


 何百回も失敗した。


 髪が逆立った。


 指を火傷した。


 母上の花瓶も割った。


 それでも十三歳の時。


 初めて俺の指先から、小さな雷が飛んだ。


 それを見た父上が言った。


『これ、剣に纏わせられないか?』


 頭がおかしいと思った。


 やってみた。


 できた。


 次に。


『身体にも流せないか?』


 もっと頭がおかしいと思った。


 でも、やってみた。


 これもできた。


 俺が雷を作り。


 父上が剣術として完成させた。


 それが〈雷装〉だった。


「レオン」


「はい?」


「ぼーっとするな」


「あ」


 目の前に父上がいた。


「うわっ!」


 頭を下げる。


 直前まで頭があった場所を木剣が通過した。


「危なっ!」


「戦場なら死んでいたぞ」


「ここ戦場じゃないでしょう!」


「だから木剣にした」


「論点そこじゃない!」


 父上が笑う。


 俺も腰の剣を抜いた。


「やります?」


「来い」


「魔法あり?」


「ああ」


「後悔しますよ」


 左手を向ける。


「――氷槍」


 三本の氷槍が生まれる。


 放つ。


 一閃。


 全部砕かれた。


「嘘だろ」


「遅い」


 父上が来る。


 俺は剣へ魔力を流した。


 バチッ。


 青白い雷が刀身を走る。


 受ける。


 重い。


「くっ!」


「足が止まっている」


「父上基準で言わないでください!」


「敵は待ってくれんぞ」


「だったら!」


 右手を向ける。


「――雷撃!」


「馬鹿!」


 父上が飛ぶ。


 轟音。


 雷が訓練場の壁を吹き飛ばした。


「……」


「……」


 二人で壁を見る。


「レオン」


「父上がやったことにしません?」


「何故だ」


「母上に怒られるの嫌なので」


「俺も嫌だ」


 結局。


 二人で怒られた。


 剣だけなら、父上には百回やって百回負ける。


 魔法を使っても。


 まだ勝てない。


 でも。


 いつか勝ってみたいと思っていた。


 これから何年も。


 父上と剣を振るのだと思っていた。



 その日の夕食は、母上の作ったシチューだった。


 領主の家なのだから料理人はいる。


 それでも母上は昔から時々、自分で料理をする。


 特にシチューは。


 俺が小さい頃から好きだった。


「レオン」


「はい」


「人参」


「……食べてます」


「避けているでしょう」


「気のせいです」


「十六年間あなたを育てた母親に、その言い訳が通じると思っているの?」


「……食べます」


 向かいで父上が笑った。


「諦めろ、レオン」


「父上だって豆残してるじゃないですか」


 父上の笑顔が消えた。


 母上を見る。


 母上も見る。


「あなた?」


「……今から食べる」


「俺には諦めろって言ったくせに」


「黙れ」


 いつも通りだった。


 本当に。


 いつも通りの夕食だった。


 俺はこの時間が好きだった。


 厳しい父上も。


 怒ると怖い母上も。


 大好きだった。


 自分がこの家に生まれたことを、心から幸せだと思っていた。


「そういえば」


 母上が言う。


「今日も雷の訓練をしていたのでしょう?」


「はい」


「壁が壊れていたけど?」


「父上です」


「レオン!」


「共犯です」


「お前!」


「二人ともです」


「はい」


「……はい」


 母上には勝てない。


 父上がパンをちぎりながら俺を見る。


「しかし、本当に不思議だな」


「何がです?」


「雷だ。王都の魔術師にも聞いたが、再現できた者はいないそうだ」


「そうなんですか」


「ああ。どうやって思いついた?」


「ああ」


 俺は人参を口に入れた。


 嫌いだ。


 噛む。


 飲み込む。


 それから。


 本当に。


 何も考えずに答えた。


「前の世界にあったからですよ」


 父上の手が止まった。


 母上も止まった。


「……何?」


「雷です」


「いや」


 父上が眉を寄せる。


「前の世界とは何だ」


「あれ?」


 そういえば。


 話してなかったっけ。


「俺、前世の記憶があるんですよ」


 言った。


 本当に。


 それだけだった。


 父上が俺を見る。


 母上も俺を見る。


 俺は二人を見返した。


「……何です?」


「レオン」


 父上の声が低くなる。


「今の話を、もう一度しろ」


「前世の記憶があります」


「前世とは」


「この世界に生まれる前です。別の世界で一回生きてました」


 沈黙。


「……冗談?」


 母上が聞いた。


「いや。本当ですよ」


「いつから?」


「いつからって?」


「その記憶があるのは、いつからなの?」


「ああ」


「生まれた時からです」


 母上の顔から。


 笑顔が消えた。


 それを見て。


 ようやく。


 何かがおかしいと思った。



 夕食は終わった。


 正確には。


 続けられなくなった。


 場所を父上の書斎へ移した。


 父上。


 母上。


 俺。


 さっきまで同じ食卓で、人参だの豆だの壁だのと話していた三人が、今は誰も笑っていない。


「前の人生では、何歳だった」


 父上が聞いた。


「死んだ時ですか?」


「ああ」


「三十四です」


 母上の指が僅かに動いた。


「……三十四」


「はい」


「男?」


「そうです」


「家族は?」


「いました」


「妻は?」


 母上だった。


「いました」


「子供も?」


「娘が一人」


 母上が口元を押さえた。


 そこで。


 ようやく俺にも分かった。


 これは。


 俺が思っていたより。


 ずっと大きな話なのかもしれない。


「母上」


「あなた」


 母上が俺を見る。


 今まで。


 一度も見たことのない目だった。


「私より……年上なの?」


「……いや」


 違う。


 そう言おうとして。


 止まった。


 前世で死んだのが三十四。


 母上は三十八。


 だから年齢だけなら違う。


 でも。


 そういう話じゃない。


「生まれた時から、全部覚えていたの?」


「……はい」


「私があなたを抱いていた時も?」


「はい」


「お風呂に入れた時も?」


「……はい」


「一緒に寝ていた時も?」


 声が震えていた。


 何も言えなくなった。


 俺にとって。


 この人は母親だ。


 前世の記憶があろうがなかろうが。


 十六年間。


 一度だって。


 それを疑ったことはない。


 だけど。


 それは俺の側の話だった。


 母上がどう感じるのか。


 一度も。


 考えたことがなかった。


「……ごめんなさい」


「違うの」


 母上が立ち上がる。


「責めたいわけじゃないの。ただ……」


 声が続かなかった。


「ごめんなさい。少し、一人にして」


「母上」


「今は」


 止められた。


「お願い」


 母上が出ていく。


 扉が閉まった。


 静かだった。


 父上は。


 ずっと黙っていた。


「父上」


「雷は」


「……はい?」


「あれも、前の世界の知識なのか」


「……はい」


「氷も?」


「はい」


「そうか」


 父上が自分の右手を見る。


 何度も一緒に作った。


 何百回も失敗した。


 父上の腕を痺れさせた。


 転ばせた。


 二人で夜中まで魔力の流れを考えた。


 初めて剣へ雷を纏わせられた夜。


 父上は珍しく酒を出した。


 俺は十三歳だったから、母上に二人まとめて怒られた。


 全部。


 俺にとっては。


 父上との思い出だった。


「俺はお前に剣を教えた」


「はい」


「文字も。馬も。初めて魔物を倒した時も一緒だった」


「はい」


「俺は」


 父上の声が掠れた。


「お前の父親だと思っていた」


「父親でしょう」


 即答した。


 父上が俺を見る。


「俺の父親です」


「……前の世界にもいたのだろう」


「いました」


「母親も」


「はい」


「妻も」


「はい」


「娘まで」


「……はい」


 父上の顔が歪んだ。


「なら」


 小さな声だった。


「お前は、誰なんだ」


 胸の奥に。


 何かが刺さった。


「俺は……レオンです」


「そういう意味ではない」


「分かってます」


「俺には分からん」


 父上が立ち上がった。


 窓へ歩く。


 背中を向けたまま。


 長い間。


 何も言わなかった。


「すまない」


 やがて。


 父上が言った。


「今は、お前を息子として見られない」


「……え?」


「家を出てくれ」


「父上?」


「頼む」


 本気だった。


 その時になって。


 初めて理解した。


 怒られるなんて。


 嫌われるなんて。


 追い出されるなんて。


 微塵も考えていなかった。


 家族だから。


 俺の家族だから。


 普通に受け入れてくれると思っていた。


 前世の記憶がある。


 俺にとっては。


 ただ、それだけだった。


 浅はかだった。



 翌朝。


 俺は十六年間暮らした家を出た。


 荷物は鞄一つ。


 服。


 金。


 保存食。


 そして。


 腰に一本の剣。


 十五歳の誕生日に、父上からもらった剣だった。


 母上には会えなかった。


 部屋から出てこなかった。


 父上は玄関にいた。


「……行きます」


「ああ」


 それだけ。


 父上の腰にも。


 剣があった。


「父上」


「何だ」


「雷」


 父上の手が僅かに動いた。


「まだ使ってくださいね」


「……」


「父上が使う雷、好きなんです」


 返事はなかった。


 俺は頭を下げた。


「今まで、ありがとうございました」


 外へ出る。


 扉が閉まった。


 十六年間暮らした家だった。


 なのに。


 振り返ることができなかった。



 家を出て。


 初めて知った。


 噂というものは。


 魔法より速い。


「あいつだ」


「領主様の息子じゃなかったって」


「三十過ぎの男が赤ん坊に入り込んでたらしいぞ」


「じゃあ本当のレオン様は?」


「最初からいなかったんじゃないか?」


「気持ち悪い……」


 違う。


 そうじゃない。


 そう言いたかった。


 でも。


 何が違うのか。


 上手く説明できなかった。


 俺には前世の記憶がある。


 三十四歳まで生きた。


 妻も。


 娘もいた。


 全部。


 本当だ。


 それでも。


 俺はレオンだ。


 そのはずなのに。


 昨日まで挨拶してくれた人が目を逸らす。


 店の前を通れば。


 会話が止まる。


 街の門が見えてきた。


 ここを出れば。


 アルヴェイン領の外だ。


「レオン!」


 声がした。


 振り返る。


 長い茶色の髪。


 大きな鞄。


 幼馴染のミアが走ってきた。


「……何してんの?」


「見れば分かるでしょ」


「分からないから聞いてる」


「旅支度」


「どこ行くの?」


「あんたと」


「何で!?」


 ミアが俺の隣へ並ぶ。


「一人じゃ死ぬでしょ」


「俺、結構強いよ?」


「そういう意味じゃない」


「じゃあどういう意味だよ」


「面倒臭いなぁ!」


 怒られた。


「帰れよ」


「嫌」


「お前まで変な噂立つぞ」


「もう立ってる」


「……え?」


「異世界人に誑かされた女だって」


 言葉が出なかった。


「……ごめん」


「何で謝るの?」


「俺のせいだろ」


「そうだね」


「そこは否定してくれよ」


「嫌」


 ミアが笑う。


「だから責任取って」


「どうやって?」


「とりあえずご飯」


「何で俺が作るんだよ」


「レオンの方が上手いから」


「追放された日に飯炊きさせられる奴いる?」


「ここにいる」


 歩き出す。


 俺は。


 その背中を見た。


「……ミア」


「何?」


「俺、本当に前世の記憶あるよ」


 ミアが止まった。


「三十四まで生きてた。結婚もしてた。娘もいた」


「聞いた」


「怖くないの?」


 ミアは。


 少し考えた。


「レオンは、私が八歳の時に木から落ちたの覚えてる?」


「鼻水垂らしながら泣いてた」


「殺すわよ」


「聞いたのお前だろ」


「十歳の時、川に落ちたのは?」


「俺が助けた」


「十二歳の時は?」


「お前が俺の氷を食べて腹壊した」


「それは忘れて」


「無理」


 ミアが振り返る。


「それ」


「何?」


「全部レオンでしょ」


「……」


「前のあんたが誰だったかなんて、私は知らない」


 笑った。


「私が知ってる十六年のあんたは、あんたでしょ」


 胸が。


 痛くなった。


『お前は、誰なんだ』


 父上の声が浮かぶ。


 俺には。


 答えられなかった。


 でも。


 ミアは。


 あっさり答えた。


「……そっか」


「うん」


「じゃあ行くか」


「うん」


「どこへ?」


「知らない」


「決めてないの!?」


「レオンが決めてると思ってた」


「俺、昨日追い出されたばっかりだぞ!」


「頼りないなぁ」


「帰れ!」


 二人で。


 街を出た。



 三日後。


 俺たちは隣の都市ラグナへ着いた。


 宿代。


 飯代。


 これから生活する金。


 全部必要だ。


 だから。


 冒険者になった。


 登録で水晶へ触れると。


 青。


 緑。


 白。


 三色に輝いた。


「三属性!?」


 受付嬢が叫んだ。


「水、風、光……三属性持ちなんですか!?」


「はい」


「すごいですよ!」


「そうなんですか?」


「そうなんです!」


 何故か怒られた。


 その日のうちに。


 俺とミアは初めての依頼を受けた。


 ゴブリン五体。


 簡単な討伐だった。


 森へ入る。


 見つける。


「五体」


 ミアが剣を抜く。


「俺がやる」


 右手を向けた。


 水属性の魔力を集める。


「――氷槍」


 水が生まれる。


 凍る。


 五本。


 放つ。


 一瞬だった。


 五体のゴブリンが倒れる。


 同行していたギルド職員が固まった。


「……今の」


「はい?」


「何属性ですか?」


「水です」


「どこが?」


「水ですよ」


「凍ってましたけど!?」


「冷やしたので」


「水は冷やしても凍りません!」


「冬に池凍りますよね?」


「……」


「……」


「凍りますね」


「ですよね?」


 ミアが笑っていた。


 依頼は終わった。


 そのはずだった。


 帰り道。


 低い唸り声が響いた。


 木々の奥から。


 巨大な影が現れる。


 オーク。


 さらに。


 その後ろ。


 一回り大きな巨体。


 巨大な斧。


 ギルド職員の顔が青ざめた。


「オークジェネラル……!」


「強いんですか?」


「逃げてください! 新人が戦う相手じゃありません!」


 オークジェネラルが走る。


 地面が揺れた。


「レオン!」


「大丈夫」


 右手を上げる。


 風。


 光。


 二つを重ねる。


 空気が震える。


 髪が逆立つ。


 青白い雷が。


 指先に集まった。


「――雷撃」


 轟音。


 森が白く染まった。


 雷が巨体を貫く。


 オークジェネラルが。


 倒れた。


「……」


 ギルド職員が俺を見る。


「今のは?」


「風と光です」


「何で!?」


「組み合わせました」


「組み合わせるな!」


「何で怒ってるんです?」


「常識が壊れるからです!」


「レオン!」


 ミアが叫んだ。


 一体のオークが。


 すぐそこまで来ている。


 近い。


 魔法より。


 こっちの方が速い。


 剣を抜く。


 バチッ。


 刀身へ雷が走った。


 一歩。


 踏み込む。


 父上ほど速くはない。


 剣術だって。


 遠く及ばない。


 それでも。


 十六年間。


 あの人に教わった剣だ。


 一閃。


 オークが崩れ落ちる。


 刀身に残った雷が。


 小さく弾けた。


「……やっぱり」


 ミアが呟いた。


「何?」


「あんた、戦い方だけはガルド様そっくり」


 俺は。


 剣を見る。


「まあ」


 鞘へ戻した。


「父上に習ったからね」



 ギルドへ戻ると。


 少しだけ騒ぎになった。


 新人がオークジェネラルを倒した。


 しかも。


 見たことのない氷と雷を使った。


 ギルドマスターに呼ばれた。


「氷は何属性だ」


「水です」


「雷は?」


「風と光」


「お前は三属性しか持っていないんだよな?」


「はい」


「なら何故、氷と雷を使える?」


「何故って……」


 少し考える。


「氷は水ですし、雷も風と光を使って作ってるだけなので」


「だが魔法は六属性だ」


「属性は六つですよ」


「なら何が違う」


 俺は首を傾げた。


「魔法まで六種類しかないなんて」


 誰も。


 そんなことを。


 決めていない。


「誰が決めたんです?」


 ギルドマスターが。


 黙った。



 それから一か月。


 俺とミアは。


 ラグナに小さな家を借りた。


 俺の氷と雷は街で少し有名になった。


 王都から魔術師までやってきた。


 冒険者としての仕事も増えた。


 金も。


 少しずつ貯まった。


「狭い」


 新居へ入ったミアの第一声だった。


「文句言うなら出てけ」


「台所も狭い」


「お前料理しないだろ」


「レオンがする」


「だから何でだよ!」


 ミアが笑う。


 俺も。


 笑った。


 その夜。


 新しい自分の部屋へ入った。


 ベッド。


 机。


 椅子。


 窓。


 それだけ。


 前の部屋と比べれば。


 ずっと狭い。


 それでも。


「……俺の部屋か」


 家を追い出された。


 家族を失った。


 故郷まで失った。


 それでも。


 俺は生きている。


 仕事もある。


 家もある。


 隣には。


 うるさい幼馴染もいる。


 ここから。


 また始めればいい。


 そう思った。


 もう。


 俺からアルヴェイン領へ戻ることはない。


 父上や母上を嫌いになったわけじゃない。


 嫌いになれるはずがない。


 でも。


 俺を息子として見られないと言ったのは父上だ。


 俺を追い出したのも。


 あの家だ。


 なら。


 俺はここで生きていく。


 そう。


 決めた。



 その数日後。


 夕方の冒険者ギルド。


 扉が。


 勢いよく開いた。


「レオン・アルヴェイン殿はいるか!」


 酒場が静かになった。


 俺も。


 動けなかった。


 久しぶりに聞いた。


 その名前。


 レオン・アルヴェイン。


「……レオン?」


 ミアが俺を見る。


「聞こえてる」


 入口に。


 一人の騎士が立っていた。


 泥だらけだった。


 鎧には傷。


 息も荒い。


 知っている。


 アルヴェイン領の騎士だった。


 俺は立ち上がる。


「俺です」


 男が。


 俺を見た。


「レオン様……!」


「もう様はいりません」


「ですが」


「アルヴェイン家の人間じゃないので」


 男の顔が。


 僅かに歪んだ。


「それで」


 俺は聞いた。


「何の用ですか?」


 男は。


 その場で。


 膝をついた。


「お願いします」


 頭を下げる。


「アルヴェイン領を、お救いください」


 酒場が。


 静まり返った。


「……何があったんです?」


「北の森から、魔物が溢れました」


「数は?」


「千を超えたところで、数えるのをやめました」


 ミアの表情が変わった。


 俺は。


 聞かないつもりだった。


 でも。


「父上は?」


 口から出た。


「ガルド様は前線で戦っておられます」


「……母上は?」


「領民の避難を指揮されています」


 二人とも。


 生きている。


 胸の奥が。


 少しだけ軽くなった。


 まだ。


 こんなにも。


 気にしている。


「レオン様」


「様はいりません」


「……レオン殿」


 騎士が顔を上げる。


「ガルド様からです」


 嫌な予感がした。


「何て?」


 騎士は。


 少しだけ言葉に詰まった。


「戻ってきてほしい、と」


 胸が。


 痛んだ。


 あの日。


 父上は言った。


『家を出てくれ』


 そして今。


『戻ってきてほしい』


 俺は。


 騎士を見た。


「……俺を追い出したのは」


 声が。


 思っていたより静かだった。


「父上ですよ」


「……」


「俺はもう、息子じゃない」


「レオン殿……」


「そう言われたんです」


 騎士は。


 何も言えなかった。


 長い沈黙。


「……少し」


 俺は言った。


「考えさせてください」



 その夜。


 眠れなかった。


 目を閉じる。


 父上がいた。


 剣に。


 俺の雷を纏わせている。


 母上がいた。


 俺の嫌いな人参を。


 シチューへ入れている。


 家がある。


 訓練場がある。


 街がある。


 十六年間。


 俺が生きた場所。


 そして。


 最後の日。


『家を出てくれ』


 目を開けた。


「……知らないよ」


 誰も。


 聞いていなかった。



 翌朝。


 冒険者ギルドへ向かった。


 騎士は。


 入口で待っていた。


 俺を見る。


「レオン殿」


「家には戻りません」


 最初に。


 そう言った。


 騎士の顔が曇る。


「俺はもう、アルヴェイン家の人間じゃない」


「では……」


「でも」


 腰の剣へ触れる。


 父上から。


 もらった剣。


「魔物は倒します」


 騎士が。


 顔を上げた。


「レオン殿……!」


「勘違いしないでください」


 右手を上げる。


 指先に。


 青白い雷が宿った。


「父上の息子として戻るわけじゃない」


「……」


「俺は冒険者です」


 ミアが。


 隣へ来る。


 大きな鞄。


 腰には剣。


「何してんの?」


「見れば分かるでしょ」


 どこかで聞いた会話だった。


「旅支度」


「来るの?」


「当然」


「危ないぞ」


「一人じゃ死ぬでしょ」


「だから俺、結構強いって」


「そういう意味じゃない」


 笑った。


 俺も。


 少しだけ笑った。


 そして。


 北を見る。


 アルヴェイン領。


 二か月前。


 俺が追い出された場所。


 もう戻らないと。


 決めた場所。


「行こう」


「うん」


 俺は。


 家へ戻るんじゃない。


 アルヴェイン家へ戻るんでもない。


 父上の息子に戻るためでもない。


 ただ。


 魔物を倒しに行く。


 それだけだ。



 そう。


 自分に言い聞かせながら。



 指先には。


 俺が生み出した雷を。



 腰には。


 父上から教わった剣を。



 俺はもう一度。


 生まれ故郷へ向かった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


今回は短編として書きましたが、反響があれば続きを連載として書こうと思っています。


追い出された故郷へ戻ったレオンを、父と母はどう迎えるのか。


そして、父とともに作った〈雷〉を手に、レオンは故郷を救うのか。


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