08 側近候補
「やっぱり東も西も関所って名目ででけえ砦を造ってやがるな。もうかなり完成してやがる。オレたちの言うことなんてまるで無視だ。ナメられてんだよ。最悪、ここが東と西の戦場になるかもしれねえ……」
「失礼します……」
リビングに入ったら、ブライアン兄上が父上に報告している場面だった。
ブライアン兄上は、実質的なこの国の軍を率いる立場である。いつもは忙しく国中を飛び回って、魔獣や害獣を駆除している。
報告内容があまりいい話ではなかったのか、ブライアン兄上の話を聞いている父上や母上、そしてメルヴィン兄上が暗い雰囲気をしていた。
なんとなく声をかけるのを躊躇ってしまうほどだ。
「おお! アーサーも来たか! こっちに来るといい。今日はアーサーの将来の側近を決めるぞ!」
父上が僕のか細い声に気が付くと、どんよりしていた暗い雰囲気を吹き飛ばすようにニカッと笑って言った。
「オズワルドにも聞きましたけど、側近ってどうやって決めるんですか?」
「まあ、とりあえずは人や『魂の魔法』の相性などを見たりだな。決めるぞとは言ったが、実はもう儂らの方であらかた選んでおる。あとはキースの承認待ちといった感じだな」
「そうなんですね」
僕はちょっとホッとした。王族として失格かもしれないけど、僕はあんまりこの国の貴族のことや民草のことを知らない。父上たちの方がよっぽど詳しいだろう。あらかじめ選んでくれていたというのは、正直ありがたい。
「あまり緊張せぬことだな。今から選ぶ側近は、とりあえずの側近だ。実際にその者たちを見て、接して、何度も入れ替えたりしながら、成人する十五までに正式な側近を選ぶ。そんな心持でいるといい」
「はい!」
「いつまでもそんな所にいないで、こっちに来て座るといい。今、お茶を用意させよう」
「ありがとうございます!」
僕は父上と母上の向かいのソファーに座っていたブライアン兄上とメルヴィン兄上の間に座ることにした。
「むふー」
兄上二人に挟まれて、僕はご満悦である。
「これが、今回アーサーの側近候補に挙がっているリストだな。儂だったら……そうだな、こいつなんてどうだ?」
父上が指したのは、リストでも下の方に記された名前だった。
シェリー?
家名がないということは、平民の生まれかな? 現在八歳らしい。
『魂の魔法』は、修繕。
物を直すことができる魔法が使えるようだ。壊れた鎧や折れた剣も直せるらしい。物ならなんでも直すことができると書いてある。
「すごい……!」
「人は治せないようだが、物に特化している分、その力は強いようだ。アーサーはぬいぐるみをたくさん持っているだろう? ぬいぐるみというのはどうしても摩耗するからな。彼女の魔法はアーサーと相性がいいと思うぞ?」
「はい! 僕もそう思います!」
「ふむ。アーサーも乗り気のようだし、一度王城に呼び出してみるか。次にお勧めなのが――――」
「こいつなんていいんじゃないか?」
「この者の『魂の魔法』も見過ごせませんね」
「あらあら」
こうして、僕たちはリストと睨めっこしながら、僕の側近候補を選んでいく。
ここでも一番重要な情報になってくるのが、『魂の魔法』で何ができるかだ。
『魂の魔法』が有用なら、先ほどのシェリーのように、ただの平民がいきなり王族の側近になったりもできる。
まぁ、王族の側近と言っても、第三王子の僕の側近だけどね。
でも、自分がどんな『魂の魔法』を授かるかで、今後の一生が左右されるというのは、あながち間違いじゃない。そのことがよくわかる事例なんじゃないかな?
「まあ、最初はこんなところか?」
そうして選出されたのが、オズワルドを含めて六名の側近候補だ。
オズワルドは本人も言っていた通り文官候補。そして、シェリーはメイド候補だった。
他で言うと、実は既知の人物がいた。
それが、アンジェリカ・ラ・エアルドレッド。エアルドレッド公爵家の娘で現在十三歳。僕の大好きなアンジェリカお姉ちゃんである。
エアルドレッド公爵家は、エインズワース王家の分家の中で唯一、公爵の爵位の世襲が許された分家である。
僕もブライアン兄上かメルヴィン兄上のどちらかが王になれば、公爵の爵位を貰えるだろう。
でも、それは僕一代限りのもので、僕の息子に継がせることはできない。
それを許せば、無限に公爵家が増えちゃうからね。
それが許されているエアルドレッド公爵家は、特別な家なのだ。王位継承権も許されているほどである。
たしか、その始まりは大昔の戦争で大活躍したんだったかな?
そして、その後も影に日向にエインズワース王家を支え続けてきてくれた。大きな恩がある家だ。
そんな家だから、エアルドレッド公爵家はいろいろと特別扱いが許されている。
その一つが、堅苦しい手続きをしなくても、王族の私的な空間に入ってもいいというものだ。
僕はよくわからないけど、普通は王族、しかも父上に会うのってかなり難しいらしいよ?
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