02 家族大集合
僕の目の前には、ぐったりとした黒いドラゴンの姿が見える。
パッと見だと怖いけど、よく見ると適度にデフォルメされていてかわいいぬいぐるみのドラゴンだ。
その名も、神々の牙バルタザール。邪神までも喰らった伝説を持つ、神話にも何度もその名が登場するドラゴンの王だ。
僕の五歳の誕生日に、父上が職人を呼んで作らせた一点物のぬいぐるみである。僕がその背中に乗って、余裕でゴロゴロできるほど大きさを誇っている。
もしかして、僕の『魂の魔法』を使えば、このバルタザールも動いてくれるようになるのでは?
「そんなの、やってみるしかないよね!」
バルタザールは、僕の大好きなドラゴンだ。その気高い心と献身は、今も人々の間で神話として残り、今も特に人気の高いドラゴンなのだ。
あまりにも僕がバルタザールが好きだから、父上が「ドラゴンなのだから大きい方がいいだろう!」と言って、こんなに大きなぬいぐるみを作ってくれたのだ。
こんなに大きなバルタザールが動くところを見てみたい!
僕はさっそく『魂の魔法』を使ってバルタザールの縫い目を補強するように糸を走らせていく。
でも……。
「はぁ……、はぁ……、はぁ……」
僕の魔力を全部使ったけど、バルタザールの半分も縫えなかった。
だからかもしれないけど、バルタザールが動き出す気配がない。
やっぱり伝説のドラゴンだからか、それとも単純に大きいからなのか、簡単にはいかないらしい。
「あ……」
魔力を全部使ってフラフラになってしまった僕は、そのまま前に倒れそうになる。
「ワフ!」
危うく床に倒れそうになった僕を滑り込むように背中で受け止めてくれたのは、白い大きな犬のぬいぐるみであるノアだった。
「ノア……。ありがとう……」
「ワフ!」
ノアは一鳴きすると、僕の体なんて軽いと言わんばかりに立ち上がると、ベッドに向かう。
そのままベッドの枕元に僕を運ぶノア。
ノアに降ろされると、ちょうど頭の下に枕がきた。位置が完璧だ。
「ありがとう、ノア」
「ワフ!」
僕はノアの首を撫でると、ノアは嬉しそうに尻尾を振っていた。
「ごめんよ、ちょっと疲れちゃったみたいだ。僕は寝るよ……」
僕はそのまま目を閉じる。
そして、機織りの女神アルバータに感謝の祈りを捧げる。
ありがとうございます。あなたのおかげで、僕のお友だちに命が吹き込まれました。本当にありがとうございます。
◇
儂はコンラッド・シド・エインズワース。この国、エインズワース王国を統べる国王である。
そんな儂は今、大変困っていた。
「アーサー様ですが、お帰りになった後、すぐに寝室に飛び込んで鍵をかけてしまわれたようでして……」
アーサーの寝室の前。メイドが困った顔で儂に報告する。
「あなた、アーサーに何かあったのでしょうか?」
妻も困った顔で儂を見上げてくる。
そんな顔で見られても、困っておるのは儂も同じだ。
「合い鍵はある。だが……」
合い鍵を使えば、アーサーの寝室の扉を開けることはできる。
しかし、王族にとって寝室とは唯一、一人になることができる場所だ。
言わば、アーサーの聖域のようなもの。そこに土足で入るのはいかがなものか……。
「お? 親父殿と母上じゃねえか。こんな所でどうしたんだよ?」
軽薄そうな声に振り向けば、そこには儂の不肖の息子がおった。
儂とよく似た金髪と青い瞳の男だ。たしか今年で二十四だというのに、未だに嫁を取ることを拒み続けている困った奴である。
「ブライアン、帰っていたのか」
「おう! 今日はアーサーの儀式の日だろ? そこにオレがいないなんて嘘だろ?」
「ブライアンは本当にアーサーのことが大好きですね」
妻が茶化すように言うと、ブライアンは大真面目に頷いた。
「かわいいかわいい末弟さ。アーサーのためなら、オレはどんなモンスターにでも挑んでみせるさ」
「おや? 兄上が屋敷に帰ってくるなんて珍しいですね」
その時、ブライアンの向こうからこちらに歩いてくる貴公子然とした男がいた。
全体的に妻に似たのだろう。輝くプラチナブロンドに青い瞳の線の細い男だ。今年で二十になる。そろそろ嫁をと思っているのだが、兄であるブライアンの方が先だと拒んでいる。これまた困った奴である。
「来たか、メルヴィン」
「はい。父上、母上、おかえりなさませ」
「ただいまかえりました、メルヴィン。変わりはありませんか?」
「はい」
「メルヴィンか。お前、また瘦せたんじゃないか? 男は筋肉だぞ?」
会話に割り込むように入ってきたブライアンに苦笑しながらメルヴィンが答える。
「そう言う兄上はまた体が大きくなった気がしますね。もう大きさだけなら父上より大きいのでは?」
「メルヴィン、筋肉は確かに重要だが、それだけが男の価値ではない。技ではまだまだ負けんぞ?」
儂の言葉にブライアンが鋭い目を向けてきた。
そうだ、ブライアン。男はそうでなくてはいかん。
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