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16 バルタザールの友

「この大バカ者が!」

「あう……」


 楽しすぎた大空の旅の終点は、父上によるお叱りだった。


 ここは王族の私的なスペースにある中庭だ。


 その手入れの行き届いた芝生の上で、僕は正座していた。そして、怒られていた。


「アーサー、よかった……。心配したのですよ?」


 母上が僕に抱きついて放さない。きっと、それだけ心配させてしまったのだろう。


「申し訳ありません、母上……」


 父上の一括も怖いけど、母上に心配かけてしまったという事実が心をジクジクと苛めてくる。


「まあまあ、アーサーも無事だったからいいじゃねえか? な?」

「兄上……。はぁ。ですが、私も兄上に同感です。アーサーも今後は気を付けような?」

「はい……」

「それで、どうだった? 楽しかったか?」


 上を見上げれば、父上がニカッと笑みを浮かべて訊いてきた。


「はい! 最高でした!」

「そうだよなあ! あれは気持ちよさそうだった! 正直、羨ましかったぞ! 喜べ、アーサー! お前は男児として生まれた本懐を果たしたと言ってもいい!」

「あなた! あなたはアーサーを叱っているのですか? 褒めているのですか?」


 母上に詰められて、父上も少しバツの悪そうな顔をしつつも言い返す。


「だがな、オーレリア。アーサーはドラゴンに乗って空を飛んだのだぞ? ドラゴンライダーだ! こんなの伝説どころの話ではないぞ! 男子に生まれれば、一度は夢に見る! そうだろう? ブライアン? メルヴィン?」

「わかるぜ、親父殿! オレはアーサーが羨ましくて仕方がねえ! やったな、アーサー!」

「たしかに子どもの頃は夢に見ましたが……」


 父上が振り返って問うと、ブライアン兄上は親指をグッと上に立てて言い、苦笑しているメルヴィン兄上がいた。


 仲間を二人得たと思ったのか、父上がニカッと笑って母上に向き直る。


「な? 男とは、そういう生き物なのだ」

「はぁ……」


 母上は頭が痛いと言わんばかりにおでこに手を当てていた。


「さて、こちらが片付けば、次はこちらだ」


 そう言った父上は、バルタザールに向き直った。


「待たせてすまなかったな。儂は、コンラッド・シド・エインズワース! ここエインズワース王国の第百八十七代国王である! 王であるが故に、頭は下げん! すまんな!」

「構わん、ニンゲンの王よ。ここにいるのはドラゴンの王でも、蒼穹の支配者でもない、ただのバルタザールの残骸にすぎぬからな」


 そう言ったのは、僕たちのやりとりを見守っていたバルタザールだった。


 その姿は、デフォルメされているからか、なんともかわいらしい。


 でも、そんな姿なのに、なんだか威厳を感じるから不思議だ。


「自分を残骸と呼ぶか」

「いかにも。確かに我はバルタザールだが、自分が置かれている状況を今、理解した。いかに寿命の短いニンゲンでも、百以上も代を重ねているのだ。今さらバルタザールなど過去の遺物でしかないだろう?」

「そうさな、そなたが邪神を倒してから、ざっと三千年後の世界になるか」


 その時、バルタザールの目が微かに震えた気がした。


「そう、なるか……」


 そこにはどんな感情が乗っているのか、寿命の短い僕たちにはわからない。


 でも、バルタザールがなんだかしょんぼりしているような気がしたんだ。


 だから、僕は走り出すと、バルタザールの右手に抱きついた。


「大丈夫! バルタザールには、僕がいる!」

「……ほう?」

「僕だけじゃないよ! ノア! ミア!」


 僕が呼びかけると、ノアとミアが駆けてきた。


「ここにもいるよ、ベネディクトっていうんだ」


 僕は右胸のポケットから亀のぬいぐるみを取り出すと、バルタザールに見せびらかすように掲げてみせた。


 ベネディクトは「やあ」と言わんばかりに短い右前足を上げる。


「だから、だから、バルタザールは独りじゃないんだ! だから、その――――」

「面白い奴だな、アーサー」

「え?」


 いつの間にか下がっていた顔を上げると、僕を見下ろすバルタザールと目が合った。その口は父上のようにニカッと笑っているように見えた。


「カッカッカッカッカッカッカッ! こんなに面白い奴がいるとは! ニンゲンとはこうなのか? もっと臆病な生き物かと思っていたぞ?」

「いいだろう? 自慢の息子だ!」


 バルタザールの問いに自信満々に答える父上。


「いいだろう。どうせ余生だ。我はアーサーを主として認め、このぬいぐるみたちを同胞と認めよう。まさか、こんな愉快な余生が待っていようとはな。三千年前の我に言ってもきっと信じぬぞ?」

「主? バルタザールは僕のお友だちだよ?」

「カッカッカッカッカッカッカッ! こいつは傑作だ! そうか。アーサーにとっては主の座よりも我の友が好みか! いいだろう。アーサー、汝を友として認めよう。我の友など片手で数えるほどしかおらぬのだぞ? 光栄に思うがいい」

「え? バルタザールはお友だち少ないんだね。いっぱいお友だち作ろう? 大丈夫、僕も少ないけど、なんとかなるよ、きっと!」

「カッカッカッカッカッカッカッ!」


 バルタザールが上機嫌に笑っている。それが僕にとって堪らなく嬉しかったんだ。

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