13 ベネディクト強化計画
「はい!」
沈黙が降りた時、どうしようかという雰囲気をぶち壊すように手を上げてくれたのはオズワルドだった。
オズワルドがこの空気を換えようとしてくれているのがわかった。
ありがとう、オズワルド。
「つまり、アーサー様はそのベネディクトを速く動けるようにしてあげたいのですよね?」
「そうなるね。何かいい案はあるかな?」
「でしたら、誰かに引っ張ってもらうのはどうでしょう? イメージとしては馬車のような感じです」
「なるほど……」
「ですが、それだとベネディクトが行きたい方向に行けないのでは? ベネディクトのためにメイドを一人専属にするというのも……」
アンジェリカお姉ちゃんも議論に入ってきて、いよいよ議論が加速していく。
「そのベネディクトという亀を鍛えるというのは?」
そう言ったのは、ブラッドリーだった。
「鍛えたとしても所詮亀は亀。そこまで速くなれるとも思えませんわ」
そうブラッドリーの意見を叩きのめすナディア。
大人の側近たちは、僕たちの議論を見守る形なのか、議論には参加せずに僕たちを見守っている。
「お言葉ですが、そのベネディクトが努力すべき点があるのは確かだと思いますよ。人から与えられただけの力に頼るのは堕落では?」
「ぬいぐるみに堕落の概念があるのかは疑問ですわ」
ニーナの意見も切って捨てるナディア。
まぁ、たしかにナディアの言うこともわからなくもないけど、僕はナディアにもぬいぐるみたちを一個の個として見てほしいなぁ。
強制するものじゃないから難しいだろうけど……。
「あ、あの!」
その時、控えめに手を上げたのはシェリーだった。みんなの視線がシェリーに集まり、彼女は怯んだようにビクリとする。
でも、少しの間もじもじした後、シェリーは呟くような小さな声で言う。
「その亀さんを車に乗せてあげれば……」
「車? 馬車みたいな?」
「ち、違うんです! 荷馬車の下だけみたいな形で、村では車って呼んでいたんですけど……」
「あぁ、車ですか。それはいい考えかもしれません」
シェリーの言葉を肯定するようにニーナが頷く。
でも、わかっているのは平民組だけで、貴族組は首を傾げていた。
その様子を見て、ニーナは僕たちが車を知らないとわかったのだろう。
「東部の平民の間では一般的なものなのですけど、いざ口で説明するのは難しいですね……。何か書くものをいただけると……」
「わかった。いつまでも廊下にいるのもおかしな話だし、僕の部屋に行こうか」
僕はニーナにペンと紙を与えるために自分の部屋へと急ぐ。
「わぁ!」
「これはまた……」
「ものすごい数ですわね」
シェリー、ニーナ、ナディアが僕の部屋に入った途端、驚きの声をあげた。
そう。僕の部屋には、寝室に入りきらなかったぬいぐるみたちがたくさん並べられているのだ。
まだ彼らには【糸】を使っていないけど、いずれはみんなにも動いてほしいなぁ。
でも、まずはバルタザールをどうにかしないとね。
きっとバルタザールが動くようになれば、空とか飛べるだろうし、もしかしたらあの有名なドラゴンブレスとかも見れるかもしれない。
楽しみだね!
そして、僕たちは部屋の中央にあるソファーとローテーブルに集まると、ティファニが用意してくれた紙とペンを使ってニーナが絵を描いていく。
「通常の車がこんな感じですね。物が落ちないように四辺を囲った木の板に四つの車輪が付いたものです。あとは、こんな感じに取っ手が付いていて、人が引いて使います」
それは、たしかに簡略化した荷馬車のような造りの道具だった。僕はあまり王都に出られないから、初めて見たよ。
「今回は上に乗るのは亀のぬいぐるみですので、四辺の壁は取っちゃいましょう。車輪も今のままでは大きすぎて手足を動かせませんので、これも小さくします。いっそのこと、板の下に車輪を隠しちゃいましょう。取っ手もいりませんね。これでいかがでしょうか?」
ニーナが描いたのは、今まで見たことがないものだった。
ものすごく乱暴に表現するなら、メイドたちが食事を運ぶために使っているワゴンを車輪を残してぺちゃんこにした感じだろうか?
それにしても、ニーナって意外と絵が上手い。
「面白い作りですね。ベネディクト? のサイズで作るとしたら、細工職人の仕事かもしれません」
「わたくしにはなかった発想ですわね。これも平民の知恵かしら?」
「ねえ? これを靴の下に付けたら面白そうじゃない?」
「そうでしょうか? 踏ん張りが効かないので、騎士は使えませんね」
アンジェリカお姉ちゃん、ナディア、オズワルド、ブラッドリーがそれぞれ感想を述べていく。
途中から変な話になってるけど、否定的な意見はないし、一度作ってみてもいいかもしれない。
「ありがとう、シェリー、ニーナ、キミたちのおかげでベネディクトの問題が解決するかもしれない」
「私はただシェリーの意見を絵にしただけなので、褒められるべきはシェリーですよ」
「いえいえ! そんな!」
これでベネディクトが自由に動き回れるようになるといいなぁ。
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