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⑥鬼は雉を狩る  作者: 邑 紫貴


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6/7


人外……幻想的な姿の女性。雉と呼ばれ、奇妙な人型をした鳥。

微かな記憶が俺を満たしていく。切なさと、愛しさ……求めてやまない恋心。

君は……


「一寸、置いて行ったなんて言わないでくれ。残したかったんだ、君の幸せを。オレにはもう手に入らないと思ったから。キジを救えるなら、サルとイヌにも幸せになって欲しかった。救えるのなら、オレがなんとかできるなら。そう思ったんだ……ごめんな。」

涙が零れる。すべてを思い出せないのに、感情が揺らぐ。

きっと前世のオレの本当の気持ち。

「それは、ちゃんと全員そろったところで言って欲しかったな。」

九十那……と桂花。

何故、二人が。

「俺が呼んだ。姫の記憶が戻る確信があったから。間に合ったんだから、いーじゃねぇか。俺に感謝しろよ。」

何故、雅樂は偉そうなのかな。

「ふん。キイチが好きだったのは俺が一番だからな!」

「いやいや、俺だよ。お前の一番はイヌだろ?そばにそろって転生しやがって。聞いたときは呪ってやろうかと思ったぜ。姫の記憶が戻ってなければ……まぁ、それは置いといて。」

なんか雅樂が平然と不穏なことを言ってる気がするけど。

九十那は照れたように笑う。

「キイチ、前世の俺たちを育ててくれたのはお前なんだよ。」

九十那の隣に並んで、桂花も微笑む。

「現世の姿では飛びつけないけれど、ね。慕っていた、ご主人でも飼い主でもなく。家族、友人として共に居たの。ずっと……なのに。」

涙ぐんで、下をむいたまま口を閉ざす九十那。

桂花は慰めるように寄り添い、俺に真っすぐな視線。

「一緒に行けば、きっと桃太郎を嚙み殺していたかもしれない。」

本気なんだろう。冷静に何を言うのかな。

でも、それは……

「無理だよ、そんなことはさせない。」

そう、桃太郎は常に嘘つきだから。

「まただ。何故そんなに桃太郎に優しいんだ!!」

「はっきり覚えてないんだよね、これが。まだ記憶は戻らない。」

そう、きっと戻るのは……


「おやおや、楽しそうな面々ですねぇ。」

狙ったかのように登場したのは。

「桃太郎!」

いつも冷静だった桂花が、真っ先に飛び出し、咄嗟に九十那が引き留めた。

背が低いといっても、男の力に桂花も敵わないんだな。

「改めて、自己紹介を。桃木ももぎ 遊磨ゆま。そう私が桃太郎、前世は男だ。現世は女なので、手加減してほしいな。」

感情的な周りの反応に、喧嘩を売るような言葉と態度。

桂花は本当に嚙みつきそうな殺気。

「桂花、落ち着いて。いつもの冷静さを取り戻して。」

俺の声に、桂花は息を整えて九十那を押しのけた。

「ごめん。」

小さな声で謝り、九十那の後ろに回る。

懐かしいような二人の信頼関係。うらやましい。

ずっと、親しんでくれていたけれど……本当は二人の絆に、俺は……ずっとうらやましかったんだ。

「ふふ。ほらまだ、違う殺気がするでしょう?私の後をずっと付け回していたのは君だよね、キジ……」

全員集合で、いいのだろうか。

どこか、全てをあきらめたように見える桃木。

それを冷たい、突き刺さるような視線で見つめる雉間きじま じゅん……キジ。

ずっと『桃太郎』を警戒していたのだろうか。

俺が前世の記憶から逃げていた間、君たちは……

前世からの因縁。ここで絶たなければいけない。

「桃木、オレの記憶はまだ戻らない。それでも、ここにいる全員が知るべきだ。前世の全て。顛末を。」

真剣な俺に、はぐらかすように視線を逸らしながら。

「誰が悪いとか、どうなんだろうねぇ。私たちだって、生きたいと願っていたんだ。それを姫宮の人間が……」

きっと嘘を含んだ適当な返事。

「私たち一族のせいにするのはやめて!!さっきまで記憶がないからって知らないと思わないでよ。文献が残っているんだからね。信じていなかったけれど、おとぎ話のように刷り込まれた物語。鬼はあなたよ、桃太郎。災いの元凶はあなた達、親子……」

「ふふ。くすくすくす……そう……な~んだ。また、キイチを騙せるかと思ったのになぁ。残念。」

「キサマ!!」

今度は絢が桃木に詰め寄った。

咄嗟に桃木を庇ったのは俺。

「また……許さない。キイチ、あなたは私をどうしたいの?私の事を好きじゃなかった?私に触れて、告げた想いは嘘なの?一緒に死ぬことさえ、あなたは……ひどい、裏切り者……」

あぁ、なんて愛しいのだろうか。

今ではない、前世の事を言われても記憶はないのに。前世に嫉妬してしまう。

視線は鋭く、俺を突き刺すように見つめ。

「だから、俺を殺そうとした?一緒に死ぬつもりだったの?」

嫉妬に駆られ、燃えるような憎しみ。

桃太郎、やっぱり君は誤解している。俺の心を占めるのはキジだけだったのは間違いないけれど。

「絢……まだ君と、この現世で会って数回なんだよ?ずっとその視線ばかり……なのに、心が満足してしまう。……君を残していくことを選んだのは、君のお腹に子どもがいたからだ。」

「はぁ??」

「マジ?」

「お腹に……え?」

雅樂、九十那、桂花も知らなかった。

だから、『置いて行くな』なんて言うんだと……わかってはいたけれど。

「だから俺は死ぬ間際、君がそばに居たから桃太郎に責める視線を向けた。何故、安全なところに居ないのかと。君が飛べるのを忘れていたよ……桃太郎に、約束をしたんだ。俺の命と引き換えに、君とオレ達の子に未来を残すと。」

「そうさ。けどねぇ、約束なんて無理。だって私の一族は、私を目的に来て人外を見つけてしまったんだ。殲滅しか頭にないさ。母は川を辿って逃げてきた。私を逃がすために。だから過去のお前は死ぬ間際、“俺”に憎悪の感情を向けた。」

時代、だったんだろうなぁ。

淘汰された人外の俺達。

「桃太郎、君は本当に嘘つきだね。当時の君も、女性だったじゃないか。」

「なっ……許さない!!余計に許さないから!!」

やっぱり、みたいな確信に満ち、絢の殺気が増していく。

周りは、桃太郎の性別に驚いているのに、君だけは。

「気づいていたんだね、だから追いかけてきた。」

「そうよ、私に愛情を注ぎ、私を受け入れて幸せを願った。なのに、あなたは私以外にも優しい。私だけのものでいてほしい。私だけを見てほしい。」

なんて熱烈な言葉。だけど、それは前世の記憶。

君は俺を……現世での俺を知らない。知ってほしいんだ、俺の記憶は完全には戻らないから。

「俺の前世の記憶は君だけだ、絢。綴られる言葉の羅列は俺の意志に関係なく、奥底から出てきて消える。消えて残らない。」

……思い出せる。目の前にいるのは、幻想的な姿の女性。

雉と呼ばれ、奇妙な人型をした鳥。美しい君が手にする武器の扇から滴る血は俺のだろうか。

それに仕込まれた刃が俺の首元に掠ったのか、時間差で痛みがじわじわとくる。

それは熱を伴い、首から胸元に滑り落ちる血液。癖になりそうな感覚。

『ふん。殺されてぇか、餓鬼が。』

乱暴な言葉で見上げた彼女の視線は変わらず、突き刺さるほど鋭く冷たい。

あの時と同じ。ただ俺はこの眼に留まる術を探り、埋まらない渇望を満たそうとしただけ……


「それは、出会いと別れ……敵意を向ける私に優しくして、私の心を奪っていった。安らぎを与え、全てを委ねるほどに愛した。積み重ねた時間や想いを、ずっと続く幸せを信じて……必死で止めようとしたのに、あなたは結局……私を、私たちを残して行ってしまった。数日後、死ぬその日まで……悲しみと幸せの一時。そう、あなたの言うようにお腹に子どもがいた。」

君も、全てを覚えていたわけじゃないんだね。

「逃げて欲しかった。みんなに生きて欲しかったのに。何故、君まで死んだんだ……桃太郎。」

「キジが私に向けた敵意は正しかった、それだけよ。」

「え?それは……どういう?」

「許さない!!殺す!!殺してやる!!」

手には、刃のついていない扇を広げ、攻撃態勢。

「待って、桃太郎は嘘つきだから!」

「あら、覚えてないから嘘だと言われるかもしれないけれど。周りには必死で隠していた女体……で、あなたに色仕掛けしたのよ私。」

「ちょ、今、そんな暴露いらないから!!」

そう、すべては時代のせい……自然の淘汰になるのだろうか。

人外のいた小さな村は、人間によって消え去った。

ただ仲良く平和に、幸せを願っただけの普通の感情を持った生き物が。

敵わなかった幸せを転生して、引き継ぐ想い……

連鎖はここまで、ここは平和な時代。

忘れていくべき記憶。悲しみと、後悔の思念……

「ごめんな、俺には後悔がない。だから記憶は戻らない。自己満足したんだ……小さな幸せと、残した者の幸せを願い。最期に君を見てしまったから。桃太郎に向けた視線は、託す思いと熱烈な願いだった。キジ……絢、君は前世も現世でも美しい。」

君はね、俺の狙った獲物だったんだ。

優しい?違うよ……だって、君を自分のモノにしちゃったんだよ?優しいわけがない。

サルとイヌがうらやましかった。二人のような信頼関係が欲しかった。

一寸と姫のような愛情が欲しかった。

誰でもよかったわけじゃない。

桃太郎のいう誘惑さえ、俺には関係ない。

美しいと、手に入れたいと願ったのは君だけだよ。

そう鬼は雉を狩る…








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