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⑥鬼は雉を狩る  作者: 邑 紫貴


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気が付けば、俺は雅樂の背中に担がれていた。

周りに九十那と桂花はいない。

「お、気づいたか。……前と同じだ、キジにも言った。ずっと一緒にいた俺以外、まだ記憶のないキイチにはお前たちは毒なんだと。わかってくれたよ、キイチがこれだからな。」

背にいるので雅樂の表情はわからない。

「おろしていいぞ、逃げないから。」

重いだろうし、遠慮したつもりだった。

「いやだよ、前はできなかったことが嬉しいんだ。もう少しだけ、俺に甘えとけ。」

なんともいえない居心地の悪さ。照れくさい。

「周りの目がなぁ、雅樂が良くてもねぇ。」

「ふふ。もう、歩けるのか?ふらつくなら、抱えていくぜ……お姫様抱っこで。」

「意地でも歩くよ。くくっ」

足を地につけ、背伸び。

「うん、異常はない感じ。」

「じゃぁ。ほら、行くぞ!姫が待ってるからな。俺を。」

自信に満ち、ウキウキだった雅樂を突き落とす。現実。

校内に入り、見つけた姫に猛スピードで駆け寄り、止まったかのような時間。

遠目からわかる。女生徒からのあきらかな拒絶。

去っていくのを見つめる雅樂の後ろ姿。

胸が痛み、雅樂に駆け寄った。

青ざめた雅樂の表情に、こみ上げる感情。

あぁ、きっと俺の時にも感じたのだろう……

「雅樂?大丈夫か……」

声をかけると、少し顔色が戻り苦笑をみせる。

「姫も覚えてなかったよ、前世の事。期待したんだ……俺。サルとイヌ、キジに桃太郎まで記憶があったら。無いのはお前だけだと……」


そんな気弱なことを言っていたのに。

雅樂は俺とは違う。アッタクあるのみ。記憶など無関係で落としたのだ。

数日後に、屋上に呼び出されたかと思えば。雅樂は姫を彼女として俺に紹介した。

「はじめまして、姫宮ひめみや 由以愛ゆいめです。」

自己紹介の後、姫宮は俺をじっと見つめる。

それを黙って観察する雅樂。なんだ?

「オニ……キイチさん……?……っ」

言葉と連動するように、目に涙を浮かべ。俺に微笑み、涙をこぼした。

まさか……

「思い出した、一寸……何故、私は忘れていたのかな。あなたから何度きいても、何も響かなかったのに……ごめんなさい、ありがとう。」

目の前の光景が信じられず、俺は立ち尽くす。

運命に恵まれている……?そうなのか?

これが……記憶が、幼い時の雅樂との記憶に似たようなことが……まさか。

涙が止まらない姫宮を、雅樂は抱き寄せて呟く。

「そう、俺もキイチをみて思い出したんだ。だから信じていた……きっと、お前が全てを癒してくれると。」

全てを?俺が何も望んでいないのに……思い出すのを躊躇している。

だから、雅樂のように彼女を積極的に探さない。近づかない。

九十那と桂花さえ、俺を気遣って離れてくれているから。甘えて。

……桃太郎、君はきっと違うだろう。

俺は前世から逃げているわけにもいかない。

「雅樂、おめでとう。姫宮、雅樂を頼むね……」

「待てよ、どこにいくつもりだ?」

付き合い始めた事を喜んだつもりで言った言葉なんだけど、それを。何故。

雅樂の過剰な反応に戸惑ってしまう。

「逃げていたことを認めて行動はするつもりだが、雅樂が不安になるようなところへは一人で行かないよ。約束する。この時代で、過去みたいな死に方はしないだろう?」

雅樂は安心しただろうか。

俺が思い出したくないほどの記憶を、みんなが抱えている。

解決できるのは俺の記憶と決断。断ち切らなきゃいけない。

ここは前世ではないから。連鎖はいらない。


心惹かれるのに、悲しみに染まった彼女の視線が突き刺さる。

胸に痛み。それは今の俺を苦しめる。

覚えていない前世(過去)……違う、思い出したくないだけで俺にある

。夢にみる……記憶の奥底に、それは確実に俺の中に存在するんだ。

「雅樂、君たちと俺の前世を教えてほしい。」

雅樂は俺からそっと視線を逸らし、姫宮に目を向ける。

姫宮の涙……それは複雑な感情の入り混じったもの。

それでも二人が願うのは何だろうか。

雅樂は視線を俺に戻して、苦笑する。

「お前は変わらない。優しくて、誰かのために頑張るオニだった……キイチ、俺は昔からずっと呼び続けたけど応えてはくれなかった。きっと、俺たちの記憶では思い出せないだろう。俺たちを救ってくれたのはお前だ。けれど……。清一、お前にとって俺は何だ?」

今までに見たことがない泣きそうなのを我慢した表情に、胸が痛む。

「雅樂、君は君だよ。それも変わらない。置いてくなと言われても、ずっと俺を置いて行っていたのは君だよ。ふふ…」

記憶のないことが寂しかったのだろうか、俺は。

恥ずかしさからか、思わず笑ってしまう。

そう、ずっと俺はここにいる。この現世に。

俺の漏れた笑みに、雅樂は緊張がとけたのかもしれない。

「わからない……けど今の俺が、清一が感じているモノのような気がする。キイチはねぇ!俺の恋心に協力して、一寸法師の鬼役をしてくれたんだ。君は優しいのに。力は強くて……人の為に使ってきた力を、俺に悪用されちまったのさ。俺の為に……けれど、俺の知らないところでキイチは……何故、俺に教えてくれなかった?俺に相談してくれたなら!」

「オレは君の幸せを生きてほしかった……連れてはいけない、死にに行くのはオレだけで良かったんだ。」

「お前には!!お前にだって……キジがいたじゃないか。何故だ……桃太郎のせいだろ?あいつさえいなければ!」

あぁ、記憶はないのに言葉が綴られていく。

「違う、時代だったんだ…まだ、俺が時間を稼げた、それで君たち二人は……」

「死んだよ。」

…………え?

「そう、時代だったんだろうね。だからこそ、一緒に最期を共にしたかった。」

オレのしたことは……

「雅樂、それは八つ当たりよ。キイチさん、私たちが何故、同じ世代に生まれたのか……死んだ時期が変わらないからよ。そう、私と一寸、サルとイヌは生き延び……数日後、桃太郎の一族に滅ぼされてしまったの。」

「その数日、俺の悲しみと一時の幸せ……お前の行動が正しかったのか、そんなのわかんねぇよ。俺にだって。」

桃太郎……

「キイチは優しすぎる……だからキジがお前を許せない。誰を心配したんだ、今?」

俺は……

「清一、お前が対峙しなければならないのは雉間きじま じゅんだからな。桃太郎に気を許すな、罪は許しても……心は留めておけ。」

「……滅ぼされたといっても、私の一族は逃げ延び生きてきた。この土地かはわからないけれど、確かにこの日本に、人外が生活する村が存在していた。その記憶を私たちが持っているのだから……」




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