記憶の有無
記憶の混濁。公園での事を振り返るけれど、肝心なところが思い出せない。
彼女との会話から俺が意識を失い、駆け付けて揺らす雅樂。
雅樂と彼女は会ったのか、会話したのか……雅樂は何も言わなかった。
口止めをされたのか、それとも俺が聞かないから黙っているのか。
前世……俺の知らない桃太郎の物語。
オニと仲の良かったサルと一寸……俺は……オニは自分だけが死ぬことを望んだ。
でも、きっと全員死んだんだろうな……一緒ではない場所で。
サルとイヌは一緒に死んだのだと言っていた。
俺の死ぬ間際に近くにいたらしい桃太郎……
裏切ったのだろうか、俺を騙して何を?許されない何か……
何て過酷な人生だっただろうか、時代?世界?そんな場に身を置けば……
俺だけでいい、死ぬのは。
それは、きっとこの平和な今でさえ、誰かを守れるのであれば。
選んでしまうかもしれない。大事な友人や、好きになった人を守れるのなら……変わらない。
桃太郎を許さないだろうか。わからない。安易に答えた、許すと……。
前世の俺は許さないかもしれない。
それは。違う未来があったかもしれないから……
きっと、俺なら。最悪な状況に立ち、もしも……
桃太郎、君は許しを願った。それでいいのだと思う。
後悔しているんだろ……もう、過去は変えられない。時間は戻らない。
何故、前世の記憶がある?何故、今、苦しまなければならないのか。
わからない、俺には。
高校入学の日。
家に来て、十分間に合う時間なのに俺を責め立てる雅樂。
かなり頑張った雅樂は、俺と同じ高校に受かっていたのだ。
「キイチ、早く!早く!!姫に会うんだからな!絶対にいるんだ。」
絶対にいる……その謎の自信は、どこから。
家で前世の話などできないからな、ただ準備を急ぐ。
「いってきます」
家を出て、歩きながら。
「雅樂、なぜ姫がいるってわかるんだ?」
小走りしていた足を止め、雅樂は俺の前で振り返る。
「お前は運命に恵まれている。」
「それは、今の事?」
それとも、恵まれていながら……運命とは。
「運命の歯車を狂わせたのは、桃太郎だよ。……もう、出会ったんだろ。お前が言ってくれないから、俺から伝えるね。キジと昨日会った。お前が気を失った時、彼女も混乱していたんだ。頼む……もう、誰も置いて行かないでくれ。」
「おいて行かない。今、ついていけてないのは俺だけどな。」
彼女も混乱?何に?前世にあらがっているのだろうか……
接点のない俺からすれば、彼女が恨みだとしても俺を意識してくれるのであれば。それを望む。
解放してあげたい、ただ……留めておきたいと思うのは、俺の邪な願い。
変わったわけでもない。それでも新たな一面、それも俺……
「キイチー!!」
大声と共に、背中に重み。
「ぐおっ!!」
「これから、またよろしくな!!」
背中にのしかかったまま、ウキウキな動きで俺を揺らす。
本当にサルみたいな動きするんだな。思わず笑ってしまう。
「九十那、朝からハイテンションで迷惑かけないの。清一から降りなさい。」
イヌの桂花……さん、相変わらず冷静。
「ウルセエ。お前だって、本当は飛びつきたいくせに。」
え?思わず、桂花を見てしまう。
すると視線を逸らして、少しの赤面。マジですか……
「キイチ、わかるんだけど一応、自己紹介を頼むわ。」
普段とは違う雅樂。まだ会っていない二人の事がわかると言う。
雅樂に気づいた九十那は俺の背中から飛び降り、駆け寄る。
「一寸じゃねーか!お前もここに…だよなぁ、いないわけねぇか。ちゃんと、文句言ったかぁ?あの置き去りに、お前……むぐっ」
口早に語る九十那は、桂花に口を閉ざされてしまった。
抵抗する九十那に、雅樂と桂花はため息で、俺に視線を向けた。
「もう、置いては行かないよ……多分。」
この平和な時代なら、あんなことは……あんな……
まただ、思考が濁る……あぁ、思い出したくないんだ俺は。
憎悪?違う……違うよ、桃太郎……今ならわかる、お前が悪いんじゃない。
それでも、君にもう一度会えたというのに……思い出したくない。
運命に恵まれている?望んでない記憶を呼び起こす運命……
出会い、巡り会うこの時を……本当は願っているのか、俺は。
矛盾する感覚。それは記憶なのか、今の俺の願望か。




