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⑥鬼は雉を狩る  作者: 邑 紫貴


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2/7

犬猿


受験の日。

周りを見渡すけれど、見つからない。

彼女は別の高校に行ってしまったのだろうか。

「おい、お前!」

急に大きな声が後ろから聞こえ、同時に肩を引かれた。

視線を向けて体の方向を変える。同じ目線には誰もいない。

「おい、キサマ。どこを見ているんだ、失礼なのが変わらないとは情けない。」

視線を下に移動させる。

背の低い男。見覚えのない奴。

でも。俺を知っていて、『変わらない』と告げるのは。

「誰?」

前世など、まだ信じてはいない。

夢に見た彼女は偶然かもしれないから。

記憶にないのに。むしろ、どんな風に記憶に残っているのか不思議だ。

「忘れたのか!馬鹿者!俺だよ、俺。」

詐欺の文言じゃないよな?

「よせ、九十那くつな。」

俺の胸元の服を掴んで、怒鳴る男子に制止の言葉。

背の高い、眼鏡をかけた女子。

そして男の襟を後ろから掴んで上に持ち上げ、呆れたようなため息。

「冷静になりなさい。」

「何だよ、邪魔するな。ぐえっ……苦しい、首が絞まる!助けてくれ桂花。」

静かに話す女子と、騒がしい男。

対照的な二人。仲は良いように見えるけど。

「はじめまして。私は犬目いぬめ 桂花けいか。そして、これは猿橋さるはし 九十那くつな。人違いで、迷惑をかけてしまったわね。ごめんなさい。」

人違い。その言葉に、どこか傷ついている自分がいる。

前世など否定するような俺が、寂しさを感じるなんて。

名字に犬と猿。

「俺は……記憶がないんだ。前世なんて。」

視線を下に逸らした俺に、猿橋が近づき覗き込む。

「お前は、本当に変わらないな。仲良くしようぜ、前(世)と同様……いや、その。」

同じように仲良く?

俺の知っている『桃太郎』の物語とは違う。

そうだ、違和感があった。前世を否定したから深くは考えなかったけれど。

俺は犬目の方に視線を向ける。

「雉は、どこにいるの?」

「知らない。私たちは『桃太郎』にも会っていない。偶然なのか必然なのか、私たちは近くに転生した。」

「桂花と俺は一緒に死んだからな。他の奴らは……」

ぜんせと一緒にしないで!」

見守る俺に、二人の感情が伝わってくる。

前世に何があったのか。恨みと悲しみと。死。

「俺の名は鬼脇おにわき 清一きよひと。」

二人は名乗った俺に、少し照れたような笑顔を見せる。

懐かしいような気恥ずかしいような変な気持ち。

「ヨロシクな。」

俺は笑顔を向けた。

「……ところで清一きよひと、あなた雉に会ったの?」

いきなり下の名前を女子に呼ばれて、少しドキッとしてしまう。

名前を呼ぶことを選んだ犬目は前世を嫌っているのかもしれない。

前世で二人は一緒に死んだと……

それに、雉の俺に対する敵意。

二人は俺の答えを待っている表情も真剣で、次の言葉を探しているのかな。

視線はさ迷っている。

「会ったよ。ここの見学会の日。『絶対に許さない』と言われた。彼女が去った直後に、女の『桃太郎』にも会ったよ。」

「女?」

「女かよ!」

雉の事より意外だったのかな。

「あぁ。……雉が俺を恨んでいると、言っていた。」

驚いた表情が、一瞬で曇る。

雉が俺を恨んでいる理由を、二人も知っているんだ。

『桃太郎』も詳しくは言ってくれなかった。

何があったのか。訊いてもいいのだろうか。

前世を信じていなかったはずなのに。彼女の事を知りたくて。

一目見ただけで好きになってしまうなんて。恋に落ちた。

前世で俺は何をしたんだろうか。

この想いが『変わらない』ものであれば。それに犬目と猿橋が一緒に死ぬような状況。

それを思い出したくないのか、『ぜんせと一緒にしないで』と叫んだ犬目の感情的な声が、今も耳に残っている。

前世で一体、何があったのだろう。

「雉が清一を恨んでいるとは限らないわ。」

思ってもいない言葉が返って来たので、気分と一緒に落ちていた視線を上げる。

「『桃太郎』が女に転生しているのなら、彼女の方に気を付けなさい。清一……『また』騙されないように。」

『また』?あいつは俺に何て言った?

『当時の私も悪かったけど』軽く言い放った言葉。

雉が恨む理由に『桃太郎』が関係しているのなら……

一般的に知られている物語とは違う。かけ離れた世界。

前世。鬼が実在したのか?

「おい、桂花。先生から集合だと連絡が来たぞ。時間を守らないから、俺が何かしたんだろうって疑われたぞ!」

「それは、日頃の行いが悪いからね。……清一、私達は行くわ。お互いに受かっていれば、また会いましょう。」

「あぁ、またな。」




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