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⑥鬼は雉を狩る  作者: 邑 紫貴


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一目惚れ


目が合った瞬間、俺は恋に落ちた。

それなのに彼女は鋭い視線で俺を睨み、綺麗な声を冷たく吐き出す。

「私は、お前を絶対に許さない。」

初めて会ったはずなのに。

出会っていれば必ず覚えているはずだ。それほどに君の姿は、俺の心を捕らえて離さない。

だから彼女に嫌われるような、許されない何かをしたなんて、ありえない。

「誰かと間違っていない?俺の名は鬼脇おにわき 清一きよひと。君は、誰なの?名前は。」

近づいて、人違いだと伝えたうえで仲良くなりたい。

距離を縮める俺から視線を逸らし、早足で去って行く。

小さな声が微かに聞こえた。

「ふん。相変わらず……」

それは俺の過去を知っているって事?

幼い頃に出会い、何かしたのか?

思い出せないけど、怒っている理由が分かって謝れば、許してくれるだろうか。

それは本当に俺なのかな。

これ以上、嫌われたくなくて追いかける事も出来ずに立ち尽くす。


「おやぁ。君はオニ君じゃないか?うん、そうだ。間違いない。うはぁ~~久しぶり!」

息継ぐ暇もない速さで言い終え、俺に飛びつく女の子も知らない奴。

「人違いじゃないですか?あの、皆の目が気になるので離れてください!」

乱暴な事は出来ないけど、この状況を見られて噂されると困る。

恋に落ちたばかりなのに。

嫌われているスタートからでも困難なのに、誤解まで含まっては対処できない。

俺の迷惑そうな態度に、首を傾げて見つめる。

「ぷふ。何だ、前世の記憶が無いのか!」

俺から離れたので安心したけど、この子は何を言っているんだ。

前世?おかしな事を言っているのは彼女のはずなのに、俺を笑う姿を見ていると感覚が狂っていく。

『許さない』

……自分の記憶にない何かも、まさか。

「君は誰?」

自分でも驚くような震えた擦れ声で問う。

「私は桃木ももぎ 遊磨ゆま。…前世は男。桃太郎だ。」

桃太郎が語るオニ……前世の俺は退治される側の鬼って事?許されないような悪事は。

そもそも前世など、信じているわけじゃない。だけど。

「俺の名は鬼脇おにわき 清一きよひと。」

名字に由来でも含まれているのか?

「相変わらずだね。」

信じたわけじゃない。

それでも俺の中の何かを覆すには十分な言葉。『相変わらず』

「あぁ、記憶が無いなら気を付けろよ。当時の私も悪かったけど、雉は相当お前を恨んでいる。現代とは言え、命を奪われても文句は言えないだろうな。くくく……」

雉。鳥が人間に転生しているのか?

それなら、さっきの彼女は。

「ん?もう出逢った後なのか。つまらないね。だけど……貞潔を奪った鬼など、女は許したりしないよ。」

言葉を出せない俺を見透かすように、桃木は言葉を連ねていく。

貞潔を奪った?俺が。いや、前世の鬼が雉の……

「雉の、彼女の名は?」

俺の知りたい願いや宿った想いを、今後に利用するかのような胡散臭い笑顔。

「知りたければ、全てを教えてあげよう。ただし……」

条件に何を出すのか、息を呑んだ。

「私を許して欲しい。」

それは当然、前世でのことだよな。

鬼の俺に、桃太郎が許しを請うような物語。それは。

「良いぜ、簡単な事だ。俺は前世など記憶にない。……君達が俺に対して『相変わらず』と言うのなら。きっと過去の俺(鬼)も簡単に許しただろう。責めはしない。」

雉が俺を恨んだ理由が桃木にあるとしても。過去は変えられないのだから。

「安易に答えないでよ。きっと……後悔するからね。過去のお前は死ぬ間際、“俺”に憎悪の感情を向けた。」

複雑な感情の見え隠れする言葉と表情。

雉間きじま じゅん。雉の名だ。きっと同じ学年だろう。……まだ私は現世で会っていない。」

俺を笑っていた彼女と同一人物なのかと思うほどの別人。

遅い速度で小さな声。


今日は新設された高校の見学会だった。

受験前に数日間だけ一般公開されたけれど、自由な時間に出入りを許された簡易なものだった。

偶然の出会い。

それが必然だったのかなんて、前世を信じていない今の俺にとって、考えもしない事だ。

心奪った彼女に、どうすれば俺の好意が伝わるだろうか。

そうだな、前世で奪ったのなら。

女に生まれ変わったと言う桃木の観点は、過去に犯した男の過ちを冷静に判断して、正しいのかもしれない。

彼女自身も言っていた。『許さない』と。



そして、その晩……

俺は深い眠りに落ちていく。

記憶にないはずの前世。本当にあったのかも曖昧な夢。

目の前にいるのは、幻想的な姿の女性。

雉と呼ばれ、奇妙な人型をした鳥。彼女の手にする武器の扇から滴る血は俺のだろうか。

それに仕込まれた刃が俺の首元に掠ったのか、時間差で痛みがじわじわとくる。

それは熱を伴い、首から胸元に滑り落ちる血液。

癖になりそうな感覚。

「ふん。殺されてぇか、餓鬼が。」

乱暴な言葉で見上げた彼女の視線は変わらず、突き刺さるほど鋭く冷たい。

あの時と同じ。

ただ俺はこの眼に留まる術を探り、埋まらない渇望を満たそうとしただけ……




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