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第1章「柴犬と私」⑧

あの老人と犬の散歩コースの途中に、このコンビニがあるようで、毎日ではないが週の数日、立ち寄ることがあるらしい。


そんなアルバイトの青年の説明を聞きながら、店員が客の個人情報を、別の客に教えるのは良くないなと思った。

私の顔つきで察したのか、

「でも、飼い犬を預かるんだから、少しくらいは知っててもいいじゃないですか」

と青年は言い訳めいたことを言った。

「あとこれ」と言いながら、棚からドックフードの缶を3個持ってきて、こちらに手渡し、「あの人はいつも、この缶を買ってました」と青年は説明した。

3個で一日分なのか、と思いつつ、もらうわけにはいかないと、先ほどのように遠慮しようとする青年を押し切って会計を済ませた。


店外に出ると、女性はまだいて、ハチタロウの側で彼の頭を撫でていた。

彼は、全てを受け入れたような達観した面持ちで、おとなしく頭を撫でられていた。

自動ドアが開くと、女性は私を振り返り、

「あの」と声をかけて、携帯を取り出した。

「一応連絡先を交換していただけますか」


私は、女性から申し出てこられたので、少しほっとしつつも、

「いいんですか」と念のため確認した。

「構いません」と女性は携帯を操作する手を止めなかったので、私も取り出して連絡先を交換した。


「前原といいます」

「私は、伊藤です」

柴犬の目の前でお互いに頭を下げた。ハチタロウはふたりをきょろきょろ見て、首を傾げた。

「あ、自分もお願いします」と青年も入り口に出てきて、

「あの人の家族から連絡があるかもしれないので」

そういいながら、「自分は、副島です」と携帯を持ってきた。

「明日また、同じ時間にこのコンビニに来てもらえますか」

副島君は、そう提案した。ひとまず二人も同意した。


それでは、連れて帰ろうと思って、ハチタロウをオレンジ色のポールから外そうとしたが、リードの持ち手の輪に、先端が通してあるため、一度、首輪とリードを外す必要があった。

外した途端に、逃げ出すかもしれないと思って、

「ちょっと、持っててください」と伊藤さんに彼の首輪を押さえてもらった。

だが、ハチタロウは、ポールから外したリードを再びつなぐまで、微動だにせずじっと待っていた。

「おとなしいねぇ」と伊藤さんは、もう一度頭を撫でた。


「じゃ、行こうか」と彼に声をかけると、ハチタロウは一声吠えた。

「では、また明日」とふたりに告げて、私は家に向かって、歩き始めた。




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