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第4章「妻と柴犬」⑰
「それからしばらくして、俺が部屋を空けた隙に、孫が勝手に箱の鍵を開けた」
今までも自由に出入りしていたが、そんなことをする子ではなかった。何か異常な誘惑が、孫をおかしくしたに違いないと、坂本は主張した。
導かれるように鍵の隠し場所を探し当て、箱の中身の赤黒い塊を取り出すと、孫はそれを、飼い犬の口先にもっていった。なぜ、犬に与えようとしたのか、それも不思議でならない。何かが導いているかのようだった。
孫の飼い犬は、雑種で大人しい性質だったが、その塊を鼻先で嗅ぐと、一瞬で飲み込んだ。喉元を大きな塊が通り過ぎる。孫の目の前で、飼い犬は全身を震わせ、それから高い声で鳴くと、ばたりと横倒しに倒れ、やがて息が絶えた。
孫の絶叫を聞いた坂本が駆け付けると、鳴き続ける孫の前に犬が横たわっていた。
犬の口から、先ほど飲み込まれた塊が吐き出された。それは、犬の体内の熱を帯び、湯気が立っていたが、しばらくすると亀裂が入り、小さな塊になって、砂のように崩れていった。犬の死骸の前に、赤黒い砂と、幾つかの赤い石の塊が残された。
「それが、この小瓶の中身だ」




