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第4章「妻と柴犬」⑨

吾郎は、少しだけ高価なウィスキーを持って、昔なじみの監察医の自宅を訪れた。

医者は一目見るなり嫌そうな顔をしたが、黙って土産を受け取ると、

「どんな厄介事を持ってきたんだ」と尋ねてきた。

袋の中から取り出した、石のような塊を、医者は手袋越しに触れ、それから光に透かしてみた。

「中心に何かあるみたいだな」と言いながら、匂いを嗅いで顔をしかめた。

吾郎からの説明を聞くと、医者は眉間に皺を寄せ、

「これは、俺の守備範囲じゃなさそうだ」と呟いた。

「犬の体に薬物を隠して、取引に使う可能性は」と吾郎が問いかけると、医者は少し考え込み、「そういうものじゃなさそうだ」と頭を振った。

生き物の体内に何かを埋め込み、人為的に薬品を投与して、異常分泌された体液で、何かの結晶を作り出す。

「大昔の錬金術とか、呪物の類じゃないのか」と医者は吐き捨て、とりあえず、いったんこれは預かる、と言って医者は吾郎を帰らせた。


数日後、再度訪れると、医者は粉々になった石を見せ、「調べているうちに、もろく砕けた」と説明した。粉末上になった石を検査したところ、カルシウムの成分が確認されたが、中心には核となる物が見つかった。

「人間の歯だったよ」と医師は言った。

「大人の」と続けた。


吾郎は、傍らに寝そべる八太郎に、語りかけた。

「なんでそんなことをしたのだろう」

八太郎は、わうわうと言いながら、体を伸ばす。伸びた背を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。


結局、何もわからなかった。何のために犬たちはさらわれ、体の中に人間の歯を埋め込まれたのか。

なぜ、石のような塊を体内に作られたのか。

いくら考えても正解にはたどり着けそうもなかった。




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