第4章「妻と柴犬」⑧
高利貸しと、町の組織の対立は、何が原因だったのか。
おそらく、金と人を巡る争いが、破滅的な状況に至った結果と考えられているが、正確なところは判らない。最終的な事件処理の結論は、そのあたりが曖昧で、歯切れが悪いものだった。
正直、警察としては「悪人たちの内輪もめ」を、そこまで真剣に取り上げたくないというのが、本音だったのかもしれない。
焼け落ちた屋敷の中には、数多くの死体が見つかった。襲撃した側にも多数の死者が出ていて、侵入を手引きしたとされる男は、屋敷の飼い犬に喉をかみ切られて死んでいた。
男の息子も現場に居合わせており、幸い、彼に怪我はなく、保護されて病院に運ばれたという。
当時の吾郎は、事件本体の捜査には関わっておらず、事後的な後始末に応援として駆り出されたであった。
建物は、ほぼ全焼であったが、鎮火後に地下室が見つかり、そこに多数の犬の死骸が残されていたのだ。いくつも設置された檻の中に、様々な種類の犬の死体があり、犬の体に繋がれたチューブが、何かの薬品が投与されていることを示していた。
これ以前、「U市」では、飼い犬が連れ去られるという相談が寄せられていて、地下室の犬たちは、その飼い犬たちである可能性が濃厚であった。ただ、ほとんどの犬の死体は、原型が崩れかけていて、彼らと彼女たちが、どこの家庭から引き離されたかを突き止めるのは困難だった。
上層部は内々に、これらの犬たちを処理することを決めていた。動物にそこまで手間をかけないということなのだろう。
吾郎は地下室にこの犬たちが集められた理由をずっと考え続けていた。
異様な臭気の地下室で、吾郎は一部の犬の死体の腹部に、不自然な瘤のような膨らみが存在するのを認めた。手袋越しに触れると、固くなった皮膚の向こうに、何か異物の存在が感じ取れる。
彼は、周囲に人がいないのを確かめると、犬に手を合わせ、それから懐からナイフを取り出し、その瘤の周囲を切り裂いた。鼻を衝く刺激臭を我慢しながら、指で探ると、中から赤黒い塊が出てきて、それは石のような固さがあった。素早く袋に入れると、吾郎は地下室から外に出た。




