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第4章「妻と柴犬」④

譲渡会の数日後に受けた健診で、美都子は再検査を勧められた。

いつもの時期よりも早く受診したのは、何か虫の知らせがあったのだろうか。

大きな総合病院で検査を受けた結果、内臓に腫瘍が見つかった。最も生存率が少ない臓器だった。

それから病状の変化は早く、ふっくらした美都子の顔が、だんだん小さくなっていった。

吾郎が病院に見舞いに行くと、

「ごめんなさいねぇ」と美都子は詫びた。

「気にする必要はない」と吾郎は答えた。妻に動揺を感じさせないように振舞ったが、自分の声が震えていないか自信はなかった。


もう、最後に近い段階で、

「吾郎さん、あの子のことよろしくね」と美都子は手を握った。

一人息子のことか、と一瞬戸惑ったが、もう自立した息子のことを願ったのではなく、あの譲渡会で見た柴犬のことだと思い当たった。

どうして、そこまで気にするのか、吾郎には理解できなかった。困惑した表情を見て取ったのか、美都子は微笑みながら、「最後のお願い」と吾郎の手をもういちど弱弱しく握った。それから、

「名前も考えてるから」とメモ用紙を握らせた。

そこには、「八太郎」と書かれていた。

美都子は、その日の夜に息を引き取った。


「すっかり忘れていたな」と吾郎は布団のなかで呟いた。

妻が、死の直前まで考えていた犬のことを、吾郎は少し腹立たしく思っていたのかもしれない。ただ、死後しばらくたつと、妻の願いを叶えてやろうという気持ちが強くなっていった。ただ一つの不安は、もう別の誰かが引き取ってはいないだろうか、ということだった。


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