第4章「妻と柴犬」②
彼の刑事としての仕事ぶりは、とても地味なものであった。
捜査に携わった事件は数多くあるが、どれも平均程度の成果で、目覚ましい働きを残すことはなかった。組織の中で目立つようなことをしたくなかったのだ。
ただささやかながら、特技のようなものがあった。
自宅に帰るなり、妻の美都子に、
「今日はロールキャベツだな」とぽつりと告げる。
「あら、大当たり」と美都子は目を見開き、それからくしゃっとした顔で笑った。
何のことはない。毎週の買い物に付き合い、その食材の種類を頭に入れ、妻が読む料理雑誌や、テレビを横目で眺めつつ、消去法で導き出した予想を伝えただけだ。
推理などといえるようなものではない。
それでも、妻の反応が見たくて、飽きもせずに予想をし続けた。
妻が他界し、生活が荒んだのを見かね、一人息子の家にしばらく住むことになった。
そんなある日のこと、吾郎は何の気なしに、
「明日は、ビーフシチューだな」と昔と同じように予想を口にした。
息子の嫁は、その言葉を耳にすると、しばらく無表情だったが、やがて眉間に皺を寄せ、心底嫌そうな顔をした。
吾郎は、余計なことをしたと悔んだ。
「父さん、ああいうのやめてくれないか」と息子にやんわり注意され、ああ、わかったと返事をしながら、自宅に戻るころ合いだとも思った。
息子の家での最後の夜、寝床の中でふと思い出すことがあった。
美都子と行った保護犬の譲渡会で見かけた柴犬のことだ。




