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第4章「妻と柴犬」①
「そろそろ起きてください」と妻が話しかけてきた。
瞼を開くと、目の前に妻がいた。
ああ、夢なんだな、と大隈吾郎はすぐに気が付く。
それでもこの夢が、出来るだけ長く続かないだろうかと思う。
吾郎の心を察してか、
「だめですよ」と妻がたしなめた。
「まだ、こちらにくる時じゃありません」
美都子の顔は、悲しげだが笑顔にも見えた。
「さぁ、おきてください」
目を覚ますと、天井が見えた。病院のベッドの上だ。少し頭が痛い。首の後ろが強張っていた。徐々に頭がはっきりしてくる。昨日、コンビニで倒れたこと。救急車で運ばれたこと。
そうだ、八太郎を昨日出会ったばかりの人たちにお願いしたのだ。
やれやれ、なんてはた迷惑なことをしたのだろう。緊急事態とは言え、自分勝手も甚だしいなと、吾郎は深く反省した。
カーテンは閉じられているが、隙間から光が見える。夜が明けつつあるようだ。誰か呼ぼうかとも思ったが、考え直してもういちど目を閉じる。むろん妻に会えるはずはないのだが、少し体を休めたかった。
目を閉じたまま、昔のことを思い出す。
大隈吾郎は、元刑事だった。




