第1章④
少し冷えそうだったので、パーカーを羽織って外に出た。
近所の住宅の明かりはほとんど消えている。
いつもは真夜中に出かけることが多く、日付が変わる前に出かけるのは滅多にない。
私はゆっくりと歩き始めた。コンビニまでの距離は約1キロほど。駅までの道の途中にある。
10分くらい歩くとコンビニにたどり着いた。
コンビニの駐車場の車止めと、店のガラス窓の間に、コの字を横にしたポールがいくつも設置されている。そのオレンジ色のポールに、柴犬が繋がれていた。
自動ドアの右、二つ目のそれに繋がれた柴犬は、少し地面から高くした部分に、ちょこんと座って、入口に向かう私をじっと見つめていた。
飼い主は店内にいるのだろうか。犬は視線を向けた私を見つめ、少し首を傾げる。ふと、さっき元会長に見せられたチラシのことを思い出した。
飼い主の姿を探すと、店内のレジ近くに、いかつい顔をした老人がいた。確信はないが、あの人が飼い主のような気がした。近くにいるなら、大丈夫だろう。それに、あの人ならたやすく犬泥棒にしてやられることはなさそうだ、とも思った。
自動ドアのすぐ左側に、仕事帰りのような女性が携帯で話をしていた。
聞くつもりはなかったが、ちょうど自動ドアが開いたタイミングで、
「そう、今駅前にいるから。」
と話しているのが聞こえ、思わず立ち止まってしまう。
「ここはコンビニ」と心で思う。
駅からは500メートル以上は離れているが、駅前と言えなくはないのか。
立ち止まった私を、柴犬がじっと見つめる。
女性もちらりとこちらを見た気がした。
慌てて店内に入る。
「いらっしゃいませー」とカウンターのアルバイトの青年の声が聞こえた。
店内に入るとすぐに左側に曲がる。窓の前に並ぶ雑誌の棚の前を通り、奥の壁面のドリンク売り場に向かった。今日はいつもより、ひどく喉が渇いていた。
アルコールの棚をちらりと見ると、目をそらして、炭酸水を一本手に取った。
ガラスの棚の前で右側を向くと、陳列棚の真ん中、ちょうどレジの前に繋がる通路に入る。
このまままっすぐ前に進んで、最短距離でレジに向かう。
店内の客は自分のほかに二人だけだった。