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第3章「綾子の事情」④

弟を殺した少年は、裁判にはかけられなかった。年齢によって、司法の取り扱いが異なるのだ。

「少年が犯罪に手を染めた原因は、悲惨な家庭環境と、周囲からの手助けを受けられなかったことであって、彼には更生の機会が与えられるべきである。」

それが、司法の公式見解だった。

社会は、死んだ弟よりも、生きている殺人者に手厚い。

綾子は、納得できなかった。


綾子は、職場に診断書を提出し、しばらく仕事を休ませてもらうことにした。

上司や同僚は、綾子の体調を気遣い、ゆっくり療養することを勧めてくれた。


自宅に閉じこもり、病気がちの母親と二人きりの時間が増えると、綾子は言わなくてもいいことを口にしそうになりそうで、たびたび自己嫌悪に陥った。

「母さんは、私より、弟のほうが大事だったんでしょ」

そんな言葉を、何度も口にしそうになり、辛うじて踏みとどまった。

家にいる間、弟のことを考えないようしても、気が付くとネットで加害者の少年の現在の情報を探してしまう。だが、事件から月日が過ぎると、世間は別の悲惨な事件に興味を移し、弟の事件については、取り上げられることが少なくなっていった。

綾子たちにとっては、他人の不躾な興味にさらされる機会が少ない方がいい。だが、それでも弟のことが忘れ去られるのも納得がいかなかった。


一年ほど休職したあと、綾子は職場に希望して、比較的自宅にほど近い出先機関に異動させてもらった。この人事で、今後綾子の昇進は、一定限度にとどまることになったが、彼女はそれで構わなかった。これまでになかった時間を、綾子は必要としていた。出来ることをなんでもやろうと彼女は心に誓った。


綾子は、自宅に帰る前に必ず母親に電話をするようになった。

それは、母親を安心させるためであるとともに、あの日の弟のことを思い出すためだった。

帰宅を理不尽に阻まれた彼のことを、綾子は毎日心に刻んでいた。



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