第2章「俺と黒い犬」⑫
翌日、俺は同じ時刻にコンビニを訪れ、昨日、犬が繋がれていたポールのあたりに座るふりをしながら、濡れたタオルをあてた。
タオルには無色無臭の特別な塗料が染み込ませてある。
僅かでも付着すると、特殊なレンズでみれば、光って見えるはずだった。
そのまま、駐車場の車内で待っていると、老人と柴犬がやってきた。
彼らは、散歩の途中のようで、老人は小さな袋を常に携行している。
昨日の夜と同じようにオレンジのポールにリードを回す。ちょうど、ついさっき塗料を塗ったあたりに。柴犬は、一瞬不審そうな顔を見せたが、すぐに昨日と同じようにポールの下に腰かけ、おとなしく飼い主が戻るのを待っていた。
俺は車内で、柴犬の声が聞こえないか耳を澄ませてみたが、特に何も聞こえてこない。さすがに柴犬も車内の俺のことは気が付かないようだ。
しばらすると、老人は店外に出て、柴犬のリードを外して帰っていった。
俺は車から降り、レンズ入りの眼鏡をかけ、光の痕跡を頼りにして、距離をおいて彼らの後をつけていった。
コンビニから十分以内の距離の家に到着し、彼らが中に入るのを確かめると、俺は玄関に近づいて、表札を確認し、近くの電信柱の番地も確かめた。
それから、俺は車に戻った。
手のひらで、赤い石をもてあそびながら、目を閉じて考える。
「どうすれば、あの老人から、柴犬を連れ去ることができるだろうか」
もし、老人が店内で急病に倒れ、そのすきに、あの柴犬を連れ去ることができたなら。
少々荒っぽいやり方に思えるが、不思議にうまくいきそうな気がした。
先ほど確認した氏名と住所をもとに、今の自分の仕事の権限を使って、健康保険の病歴を含んだ、老人の個人情報を集めることにした。足りない部分は、金の力で補う。
場合によっては、誰かの手を借りて。




