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第2章「俺と黒い犬」⑧

狩猟犬の口の周りは血で濡れている。

既に何人の喉笛を嚙みちぎったのだろう。

その息は荒く、体は汗で濡れ、暗闇に白い湯気が漂った。

俺は黙って狩猟犬と向き合ったが、奴が俺の喉をじっと見ているのが判った。

奴の目をじっと見ていると、自分の所業への嫌悪感と、獣としての衝動に身を任せた愉悦、彼の中で、ふたつの感情がせめぎあっているように思えた。


親父は、小さく悲鳴を上げると尻もちをつき、俺の足元で震えていた。

小便の匂いがした。


俺は狩猟犬から目をそらさず、ポケットから赤い塊を取り出す。

黒い犬の体の中から出てきたあの石を、俺は狩猟犬の鼻先に突き出した。

狩猟犬は動きを止め、ゆっくり鼻を近づけて、石の匂いを嗅ぎ、それから、俺をじっと見つめた。

「いいよ、お前にやる」

狩猟犬は、ためらわずに口を開けると石を飲み込んだ。

喉元が大きく膨らみ、やがて萎んで、彼の腹の底に石が収まっていく。

狩猟犬の声が今まで以上に俺の頭の中に強く響いてきた。

「お礼にお前の願いを叶えてやる」


次の瞬間、俺の横にいた親父の首に、狩猟犬が食らいついていた。

ぶちん、という音が響き、少しして勢いよく血が噴き出した。

親父の表情が凍り付き、顔中に血の飛沫をあびながら、地面に崩れ落ちる。俺は目をそらさず見届けた。

それから、声を上げて笑った。

もうこいつは、ただの獣だ。

狩猟犬は、俺の願いを叶えたのではない。自らを解放して、自分の中の衝動に従っただけ。彼は、生き物を殺したくてたまらなかったのだ。

俺は涙を流しながら笑い続けていた。狩猟犬は、親父の首から牙を外し、血で濡れた口から、舌を長く垂らして俺に近づいてきた。


その時、あまりの騒ぎで警察たちも集まり始めていたが、俺と狩猟犬の姿を見つけた警官が、大声をあげてこちらに近づいてきた。

狩猟犬は俺の体にのしかかり、地面に倒して、口を大きく開けていた。

俺の顔に赤く泡立つよだれがかかる。俺は狂ったように笑い続けていた。

何発かの銃声が聞こえ、狩猟犬の動きが止まった。

ゆっくり体が崩れ、俺はその下に押しつぶされそうになる。

耳元で声が聞こえる。

「もっと殺したかった」

俺は気を失った。


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