第1章③
すぐ眠りに落ち、またあの夢を見た。
私は机に置かれた書類をゆっくりとめくっていた。横を向くと、まだ年若い部下が、怯えたような目でこちらをちらちら見ている。
書類の中身もなっていない。色んな資料をつぎはぎしたような企画書。
「とりあえずこの場をしのぎ切る」ことだけを目的としたやっつけ仕事にしか見えなかった。
私は、心を落ち着かせ、できるだけ大きな声にならないように、
「これじゃぁ、上の決裁は通らないよ」と部下に告げるが、部下は、気弱そうに笑いながら、「でも、でも」と説明しようとする。
そんな部下の振る舞いも私を苛立たせた。
「前回までは、この内容で十分だと」
「それは、誰が言ったの?」
部下は、かつての上司だったらしい何人かの名前を挙げた。その名前の誰もが、古いやり方を頑なに変えない人物で、上の機嫌を巧みに汲み、本来認められるべきではない企画を通してきたような、褒められない人間ばかりだった。
目の前の、半笑いの部下の顔を見つめながら、彼が今まで、そんな人物の下にばかりついたことの不運を思った。
私は、できるだけ、強い言葉を使わないようにして、この企画書が、本来押さえるべき点から逸脱しており、これによって、当社の信用が大いに毀損されることが確実だと彼に告げた。
部下の顔からやがて笑いが消え、いったん顔が白くなり、それから、目の中に憎悪の火がともったのがはっきりと感じ取れた。
私は、部下の表情の変化を眺めながら、こんなこと、自分も言いたくはなかった、と思った。でも、誰かが言わなきゃならなかったのだと、自分を慰めた。
それでも、そのあとに起こった出来事のことを考えると、もっと違う言い方は出来なかったのか。何度も自問する。
だが、起こったことは変えることはできない。
そこで、また目が覚めた。
全身が、汗をかいている。
時計を見ると、それでも2時間しか経っていなかった。
この夢を見た後は、しばらくは眠る気になれない。
そんな時は、外に出て、少し離れたコンビニに歩いて出かけることにしていた。そうでもしなければ、この夜の残った時間の長さに耐えられる気がしなかった。