第2章「俺と黒い犬」⑥
黒い犬に教えられた家は、町でも悪辣な高利貸しとして有名な家だった。
その門前には獰猛な狩猟犬がいて、噂では、散歩中の飼い犬をかみ殺したことがあるらしい。
「その家の庭に、この箱を埋めて来てください」
黒い犬は、そう俺に頼んだ。そしてこちらに近寄り、鼻先を俺の額にこすりつけると、「これで、大丈夫です」と笑った。
「犬の声を聴いてあげなさい」
俺は怪訝な顔をしていたが、黒犬は嬉しそうに笑った。
「あの悪い男と、高利貸しは、きっかけがあれば殺し合いを始めることでしょう」
門前に人がいないのを確認し、犬のいる小屋に目を向ける。既にこちらに気付いた、茶色の逞しい狩猟犬が俺を睨んできた。
「なんだ、おまえ」と言う声が聞こえる。黒犬と同じように俺はこの犬の言葉が判った。
だが、俺の顔を見つめると、すぐに鼻を震わせ、「サンタの使いか」と問いかけくる。そうだ、と俺が答えると、犬は周囲の様子を確かめ、俺を門内に招きいれた。
「もう、おれは、誰かを傷つけるのにうんざりなんだ」
狩猟犬は、ひどく疲れた声で俺に話しかけた。
飼い主の指示で、家に近づく人や犬を何度も噛み、彼らの苦しむ悲鳴を聞かされてきた。いつまでもその声が耳を離れない。
「だが、おれはどこかでそれを楽しんでいることに気づき、我に返ってひどく落ち込む」
心の奥底の衝動に身を任せたときの快楽が、おれを狂わせる。
「サンタは、おれを救ってくれるといった」
狩猟犬はすがるような目で俺を見つめてきた。
俺は、「そのためだ」と彼に赤い石の納められた箱を見せる。
犬は俺と箱を見つめ、
「ついてこい」と庭の奥に俺を連れて行った。
これで準備は整った。




