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第2章「俺と黒い犬」①

俺は、犬たちの言葉がわかるんだ。


悲しみに震える犬の言葉は、ひときわ、俺の心に訴えかけてくる。

彼や、彼女たちの望む願いを、俺は叶えてやる。

ずっとそうしてきた。

いきなり、本題から話しても、面食らっただろう。

あんたたちにも、順を追って説明してやる。


まず、俺はクソみたいな家で育った。

まぁ、ほとんどは親父のせいだ。こいつがすべての災いの源。

お袋も親父に愛想をつかして、俺を残して家を出ていった。


親父は、酒を呑んでは俺を殴る。

自分を捨てた女への怒り。仕事についても長続きしないことへの苛立ち。

そんなものを俺にぶつけてくる。たまったもんじゃない。

小さい頃は身を守るのに必死だった。体が小さい俺は殴られると、軽々と飛んでいく。あまりのことに隣近所が警察を呼び、俺はいったん親戚に家に預けられた。


しばらくすると、酒の抜けた親父が、親戚の家に俺を迎えに来る。玄関で土下座する親父は、ぶるぶる手が震えていた。

根負けした親戚が、二度と暴力を振るわないと約束させ、俺を親父に渡す。

そんな約束、絶対に守るはずがないのに。


次第に、俺は親父の怒りの気配を機敏に感じ取ると、危うい時には親戚の家に逃げ出し、ほとぼりが覚めるのを待った。またもや親戚の玄関で頭を下げる親父を、俺は、親戚の背中越しに、冷ややかに見下ろす。

こんな生活に、俺はうんざりしていた。


「もう、に、二度とやらないからな」とろれつの回らない親父と、アパートに帰っていたとき、俺は誰かの声を聞いた。

そのときは夜道で、周りには人影はなかった。

俺は、あまりに親父に殴られたせいで、幻聴が聞こえたのかと思った。


「どこかに、連れて行ってください」


弱弱しく、悲し気な声が聞こえる。親父には聞こえていないようで、よろよろと歩き続けていた。

俺はあたりを見回し、民家の玄関先に繋がれた黒い犬と目が合った。


「ああ、私の声が聞こえるのですね」と犬が嬉しそうに鳴いた。


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