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第1章「柴犬と私」㉑

外は昨日よりも寒い気がしたので、上着を羽織って家を出た。


まだ息が白くなるほどではないが、風は冷たい。

横を歩くハチタロウは全然平気なようで、街灯に照らされた歩道を、元気よく進んでいく。彼の呼吸と、アスファルトを蹴る足の音が、規則的なリズムを奏でる。

何だか、彼が急いでいるように思えた。

歩きながら、ときどき振り返って私の顔を見つめる。その顔は嬉し気に見えた。

ひょっとすると、コンビニに行くと、飼い主の老人が待っていると期待しているのでは。

そう思うと、少し気の毒な気がする。

私は何も言えないまま、コンビニまで歩き続けた。


待ち合わせの時間より早めに到着し、ガラス越しに店内を見ると、カウンターに副島君がいた。だが、今は、数人のお客さんの対応中であった。

私は、ハチタロウと店外で待つことにした。


リードを持ったまま、オレンジの車止めに腰を下ろした。ハチタロウは私の横にちょこんと座る。


コンビニの前を通り過ぎる人をぼんやり眺めていると、女性が近づいてきた。

トレーナーとジャージ姿にランニングシューズ。

誰だろうと思って見ていると、

「お待たせしました」と話しかけてきた。

伊藤さんだった。


昨日は仕事帰りのスーツ姿で、倒れた老人への対処の仕方からも、普段の仕事ぶりを感じさせられたが、今日の服装とはかなりの落差がある。

顔つきも、昨夜の様子とは違う。ハチタロウを見つめる顔は終始笑顔で、彼の前で目線の高さまでしゃがみ、

「こんばんわ、ハチタロウくん」と話しかけた。

ハチタロウは元気よく返事をした。


伊藤さんはくるりと私の方を見ると、

「今晩から、私がお預かりします」と宣言した。


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