第1章「柴犬と私」⑯
自宅近くの公園は避けることにして、少し距離はあるが、駅近くの繁華街の中にある公園まで行くことにした。鞄に白いビニール袋を何枚か入れる。
玄関から出ると、お向かいは留守のようで、いつもは開いている門扉が閉じられていた。元町内会長と顔を会わせなくてすむので、少しほっとした。
昼を数時間過ぎたころで、最近は少し寒く感じる季節だった。それでも、歩くと少し汗をかく。長い間、運動をしてないので、息があがるように感じた。
横を歩くハチタロウが、時々立ち止まって、私を心配そうに見るが、私がちゃんと歩いているのを確認すると、再び歩きはじめた。
二十分ほどで、公園に到着した。ちょっと離れたところに飲食店街があり、そちらに向かって、公園の中を取り過ぎる人がいる。道向こうには、警察の交番があった。
公園入口の注意書きには、犬の入園は禁じられていないようだったが、他の利用者の迷惑にならないようにとも書かれていた。ひとまずは、大丈夫だと思い、ハチタロウと公園の中に入る。
公園を見渡すと、砂場に親子連れが二組ほど見えた。ベンチには、老人が座っていた。
とりあえず、公園の芝生を目指し歩いていく。ハチタロウの歩く速度が少し上がる。
草の上で、ハチタロウは匂いを嗅ぎ、いったんこちらを向くと、少し歩いて別の場所の匂いを嗅ぐ。何かの確認をしているようだが、自分には彼の目的の見当が付かない。初めて来た場所なのだろう。彼には必要な行動だと思うことにした。
しばらくして、満足したのか、芝生の上に座り、ごろごろ転がった。
「ねぇ、ママ、あのワンちゃん可愛い」
背後から、幼児の甲高い声が聞こえる。私は少しびっくりして振り返ると、女の子と、その母親らしい女性が後ろに立っていた。
子供は小学校に上がる前ぐらいの年齢に思えた。
私は、ふたりの方を向くと、少しだけ笑顔のような、曖昧な表情をしたたま、
「こんにちは」と挨拶をした。
母親らしき女性は、髪を茶色に染めていて、化粧が濃かった。
「どうも」と、ぼそっとした声で言うと、娘とは違い、ハチタロウには興味がなさそうに、視線を地面に落とした。
急に女の子は、ハチタロウに近寄ろうとした。私は、少し警戒して、彼のリードを引き、自分の足元に近づけ、女の子との間に距離を取った。
さすがに母親も、女の子が急に動くのを制止して、
「ちょっと危ない」と低い声で女の子をたしなめた。
止められたことが不満そうに女の子は頬を膨らませたが、
「ママ、あの子をうちに連れて帰って」と大きな声で母親に訴えた。




