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第1章「柴犬と私」⑮

しばらく眠っていた。


目を覚ますと、ハチタロウは先に起きていたようで、両手に顎を乗せたまま、私をじっと見つめていた。

「おはよう」

と彼に声をかけると、ハチタロウは顔をこちらに向け、少し首を傾げる。

それからすっくと立ち上がり、ソファーに座ったままの私に近寄ると、じっとそらさずに見つめてきた。

「大丈夫か」

彼がもし話せるなら、そんな言葉を発しそうな顔つきだった。

彼の黒目を見ていると、全てを見通しているように思える。

私は、眠っていた間に、うなされて何か寝言をいっていたのかもしれない。

「心配しなくていいから」と言うと、彼は納得したかのように、敷いてある毛布の上に戻っていった。


テーブルに置いた携帯のランプが点滅している。見てみると、コンビニ店員の副島君から着信の記録があった。私が応答できなかったので、メッセージが残されていた。


「今日、お爺さんの家族が来られました。体調は大丈夫とのことです。今晩、9時ごろに来てもらえますか。伊藤さんはOKです」


内容を確認し、少し安心した。ハチタロウに向かって、

「大丈夫だって。良かったな」と声をかける。

彼は、口をぱかっと開いて舌を見せた。


時計を見ると、待ち合わせまで、かなり時間があった。

「散歩でも行くか」と思わず声に出すと、ハチタロウは勢いよく立ち上がった。

散歩、という言葉がまるで魔法の言葉のように、さっきまでの思慮深い印象が、一気に落ち着きをなくさせたようで、私の顔をみながら、その場でくるりと体を回しさえした。


私は少し後悔した。療養を始めてから、昼の外出は苦手だった。

それでも、ハチタロウの期待した顔を見ていると、今さら、反故にはできないと思った。

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