第1章「柴犬と私」⑪
足を拭き、ハチタロウを部屋に入れた。
彼の前に、昨日買ってきたドッグフードの缶詰を開け、水と並べて置くと、あっという間に平らげる。それから、ハチタロウは昨日寝ていた毛布に座り、眠そうな顔をした。
私は、彼の横に行き、初めて頭を撫でる。一度目をぱちりと開いたが、撫でられるうちにうとうととし始め、やがて前に伸ばした両手に顎を納めて眠りについた。
「この子は何歳くらいなのだろう」
すやすやと眠る彼の頭を撫でながら、ふと、頭の横に傷跡を見つける。毛の中に隠れていたが、何かの古傷だろう。思ったよりも年寄りなのかもしれない。
落ち着いたように見えるのも、そのためだろうか。
じっと彼を見つめていると、ハチタロウが、わうわう、と眠ったまま唸った。
寝言だろうか。聞きようによっては、苦悶しているかに思える。
やはり、昨日突然出会った知らない人のうちに連れてこられて、彼にとってもストレスを感じているのだろう。
犬なりに、心はいろいろざわついているに違いない。
彼を起こさないように、静かに立ち上がり、私は食パンを一枚焼いて食べた。
それから、毎日飲む薬を水で流し込む。薬が効き始めると眠くなるので、ソファーに腰を下ろした。
徐々に頭がぼんやりしてくる。
何気なく自分の頭を触ると、左側頭部の窪みに指が触れた。
その傷跡は、昔あったことを思い出すので、できるだけ、触らないようにしていた。
主治医からも、止めるように言われている。
それでも、今日は傷の存在を確認するかのように、何度も指を滑らせた。




