表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不幸な少女は神になる  作者: カモノハシ
序章-死神と少女-
8/42

不幸な少女-1

結局、物語が動き出すのは、それから2年ほど後のことだった。


 


亡き老婆の代わりに家事に励んでいた8歳のラキは、この日も食材を調達するために市場へと足を運んでいた。


 


「魚屋さん、今日のおすすめは何ですか?」


 


パッチのついたヨレた布袋を抱えたラキが、いつもの魚屋の男に尋ねる。


 


「よぉラキ。今日は一昨日の大雨の影響で、一通りの魚は揃ってるが…鮎が特に安いな。」


 


魚屋の男は店頭に並べられた、細長い鮎を指差す。


 


週に一度訪れるこの魚屋は、元々老夫婦と縁が深かったため、ラキはいつも安く良い魚を選んでくれるのだった。


 


「じゃあ、それをください。」


 


「おう、最近暑いから4尾くらいでいいだろ。」


 


魚屋の男はそう言って、鮎を5尾選んで袋に詰めた。


 


「お会計はこれでお願いします。」


 


ラキは老爺から預かってきた財布を渡し、魚屋の男はその金額を確認してから、お釣りを手渡した。


 


ラキがまだ計算ができないため、金額を間違えないように慎重にやり取りが行われる。


 


ちなみに、ラキは知らなかったが、実はこの魚屋の男は、その週の売上によって少し割安にしてくれることがある。この日も1割ほど多くお釣りを渡していた。


 


「サカナヤのおじさん、いつもありがとう。」


 


お釣りと商品を受け取ったラキは、そう言って深々と頭を下げ、踵を返して八百屋へと向かおうとした。


 


「あ、ちょっといいかラキ。」


 


次の店へ歩き出そうとしたその瞬間、魚屋の男がラキを呼び止めた。


 


ラキは驚いて振り返ると、男はラキが受け取れるように、ゆっくりと小袋を投げた。


 


その袋は、砂や石のような触り心地のものだった。


 


ラキが中身を覗くと、男が説明を始めた。


 


「それは塩って言うんだ。保存料としてよく使われるもんさ。最近暑いから、これに魚を浸しておけば、何日かは持つようになる。」


 


「へぇ、ありがとうございます。」


 


ラキはその見覚えのある袋を(老夫婦の家にも同じようなものがあった)鮎の入った袋と一緒にしまい、再度お礼を言って八百屋を目指して人混みの中へと歩いて行った。


 



 


そして、ラキの姿が見えなくなると、魚屋の奥から女の声が聞こえた。


 


「今のはラキちゃん?」


 


魚屋の男は、少し遠くを見つめながら答える。


 


「ああ。」


 


「そう、あの子、頑張ってるわね。」


 


部屋と店を繋ぐ暖簾を潜り、女が顔を出した。


 


ブロンズ色の髪を持つその女性は、魚屋の男と同じ年頃のようだ。


 


「そうだな。あの人に似て、元気ないい子だ。」


 


「ふふ、昔を思い出すわね。」


 


女は、切ない思いを抱えたように遠くを見つめる。


 


2人の会話は続く。


 


「…だな。」


 


「ただ、実はあの子、同年代の子供たちからは悪魔だって虐められてるって聞いたわ。」


 


「なんでぇ。おばさんを殺した犯人だってか?」


 


「よく分からないけど…ゴフクヤさんが言ってたわ。男の子たちがそう呼びながら、頭を石で殴っていたのを、先週あたりに路地で見かけたって。」


 


奥の女は慌てたように続けた。


 


「あ、でもゴフクヤさんはきちんと怒ったらしいわ。でも、今日も腕に包帯を巻いてた。」


 


「…そうか。」


 


魚屋の男はしばらくラキの笑顔を思い出しながら、眉間に深い皺を寄せた。



**********


この作品を読んでいただきありがとうございます。


コメントや評価、レビューを是非お願いします。

モチベーションに繋がり、日々を頑張れます。


正直相当面白いモノになったと思うので、是非ブックマークもしていってください。

後悔はさせません。


**********

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ