始まり-2
ラキにとっての最初の不幸は、六歳の誕生日に訪れた。
その日は雪が降っていた。
白い粉が静かに舞う夜の中。小さな部屋の中には、三つの影と一匹の犬。
その中心には、ケーキが置かれていた。
べちゃっとしたスポンジ。
じゅくじゅくとしたイチゴ。
細いチョコレートが、垂れた糸のように文字を描いている。
見た目は、正直なところ少し不格好だった。
けれど、手作りのそのケーキを囲む顔には、あたたかい光が宿っていた。
老夫婦とラキ、そして愛犬のハッピー。
皆がケーキの周りに座り、小さな祝いの火を見つめている。
「ハッピバースデー ラキちゃん。ハッピバースデー ラキちゃん。」
老婆──ラキの義母とも言える存在が、年老いた声でゆっくりと歌う。
その声は少しふるえていて、どこか懐かしい響きを持っていた。
ハッピーも、どこか分かっているかのように、タイミングよく「ワン」と一声あげた。
「前にも見たことある行事だぞ」とでも言いたげな顔をして。
ラキはというと、ほんの少し緊張した面持ちでケーキを見つめていた。
(うまく消せるかな……)
去年は、うまくいかなかった。
口を閉じすぎて、息が出なかったのだ。
今年こそは、かっこよく一息で火を吹き消したい。
「ハッピバースデー ディア ラキ〜」
そして、おばあちゃんは歌の最後で、いつも息を溜める。
──間。
それから、演劇のフィナーレのように、声を張り上げた。
「トゥ〜ユ〜〜〜〜!」
その瞬間、ラキはきりりとした顔になり、目をぎゅっと閉じる。
そして思いきり、息を吹きかけた。
部屋の中に、静けさと緊張が走る。
……火は消えたのか?
ラキはゆっくりと目を開けた。
そこには、ちゃんと消えた蝋燭。
老夫婦は、ぱんぱんと拍手を送ってくれた。
それは少し大げさなほどに優しくて、ラキの胸をくすぐった。
「ラキ、お誕生日おめでとう。」
「開けてごらん。」
そう言って渡されたのは、小さな包み。
中には、手編みのマフラーと、老夫婦からの手紙。
それを見た瞬間、ラキは足をじたばたとさせて、満面の笑顔を浮かべた。
「開けていい?」
「もちろんよ。」
ラキは、その時思った。
自分は、きっと世界一の幸せ者だと。
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