60章 深い事情
読んでいただいてありがとうございます。もう年が明けるのか……早いな。
嫌そうな顔をするポッチの腕にマリーの手が触れると瞬く間にポッチは口を開き、驚いた表情で固まる。
すると数秒もしないうちに治療が終わったのかマリーはその場を離れる。
そんなマリーに感謝を伝えると驚いた表情を浮かべ、頷くとルチルの後ろに隠れる。
『ポッチ腕は動くか?痛みはどうだ?無くなったか?』その言葉にポッチは口を開いたまま腕を動かして確認する。
『あ?あー…痛みは無くなったが、変な感じだ…何回か巫女様に治療の魔法を受けた事があるが…ここまで回復するのか…』
最後の方は驚きが勝ったのか、独り言のように呟くポッチを安堵して見ているとルチルが話し掛けて来る。
『バル・バトス様?あのう…』『はい、約束通りすぐに騎士団長に会えるようにします。…ポッチ立てるか?』
ダニエルに何が起こったのかを話してすぐに家に帰るためにポッチに声を掛けるとルチルは焦る様に喋りだす。
『あーそんな急にかしこまらないで下さい。それとその件は信用してますので、いつでも都合のいい日で大丈夫です。私が言いたのは、マリー…彼女の事です』
マリーに目をやり真剣な表情で話をしだすルチルに耳を傾ける。
『大きい声では言えないのですが、彼女は獣人でありながら治療の能力を持っているのです』
ルチルの言い方でそれが良くない事だと分かると同時に獣人も能力を持ち、人間特有のものではないという事が分かった。
『私達が普段暮らしている王都では、帝都では考えられないほどの獣人差別が激しいのです。それに加えて獣人が能力を持つこと自体が神の意思に背くとされています』
ジョエルから聞いた通り、王都では獣人差別がある事は知っていたが、獣人が能力を持つことが神の意向に背く?
ボルガが能力について神に選ばれたとかなんとか言ってたが、神からのギフト的な、なにかなのか?
『ちょっと待ってくれ。聞きたいんだが、神が能力を与えるのか?』
その疑問を口にするとルチルは申し訳なさそうに言葉を続ける。
『すみません。質問を質問で返すようになってしまうのですが、バル・バトス様はどう考えますか?』
俺自身は確かに神のような存在に目の前で能力を与えられたが、そのほかの人達は俺と同じような体験をするのか、それとも気付いたら能力を得ていたのか?
だが、前にラニーから聞いた話しでは、突然能力の存在に気付く事があると言うことだった。
ラニーの話しを信じるならば、俺の能力は通常ではあり得ない過程で得た事になる。
ルチルの質問に答えあぐねていると、ルチルは微笑む。
『難しい質問ですよね?能力は神が与えると言えば丸く収まる事であり、深く知ろうとしても答えは出ない。
それに私は能力を持ってはいませんので、分からない事です。過去にマリーに好奇心で聞いた事もありますが…』
『神なんて居ないわよ。この能力も別に望んで得たものでも無いしね』
『この通りです。神からの授かりものだと考える事も出来ますが、それはあくまで王都の教会がそう考え、結論を出しただけのこと。
私は王都の生まれでは無いので、能力について教会どう解釈するのも自由だと思いますが、ただ、獣人を差別する宗教的な考え方には反対なのです。
そんな王都で獣人であり治療の能力を持つマリーのことが知られると教会は彼女を消しにかかるでしょう。
私からのお願いです。マリーの能力を見なかったことにして欲しいのです。これはバル・バトス様や周囲の方々の身を案じての事です。』
最後の不穏な言葉が気になるところだが、俺も言わなくてはいけない事がある。
『ああ。ルチル俺は何も見てない。だが、俺からも言わなくてはいけないことがある。今から話す内容はルチルにも関係するんだ』
ルチルにダニエルが今どのような状態なのかを話していくと、最初は何か冗談を言ってるのかという雰囲気だったが、黒色の服を着た教会連中の話しをすると態度が変わった。
全てを話した後にルチルは考えるような素振りを見せるが、大きなため息を吐くと口を開く。
『バル・バトス様?そのような状況で私達が騎士団長殿にお会いすることが出来るのでしょうか?』
ルチルの言葉で確かにと思ってしまう。俺は最初からダニエルを治療する人物を連れて来る事だけで、その後の事を考えていなかった。
『分からない…だが、執事にダニエルを治療できる事を話せば、会う事は出来るはずだ』
『…そうは言いますが、先程、騎士団長殿が先に攻撃したことにより、教会とは敵対関係になったという話ですが、
そんな状況で治療の能力を持った人物が現れて、その…執事は素直に話を聞き入れてくれるのでしょうか?』
ボルガの話しだと、教会は治療の能力を持った人物を誘拐まがいの事をして独占しているという事だった。
ルチルは言葉を濁しててはいるが、確かにこの状況で治療の能力を持った人物が現れたら、教会の手先とそう考えてもおかしくはない。
『それに言いたくはありませんが、執事が教会に私達を売って、その見返りに治療をして貰おうとすることも考えてしまうのです』
執事さんの生い立ちなどは詳しくは知らないが、ダニエルを想う気持ちには偽りがないと確実に言える。
だからこそ、そうような考えをするルチルに声を荒げてしまう。
『そんなことはしない!』『すみませんバル・バトス様。例えばの話しです。ですが、バル・バトス様は確信を持てますか?そういったことにならないと』
『執事さんは絶対にそんな事はしない。信じてくれ』『はぁ…少し懸念がありますが、分かりました。それに私も覚悟を決める時が来たのですね』
ルチルはマリーに向き直ると両手を掴み、深呼吸をすると話し始める。
『マリー王都を捨てよう』『やっとなのねルチル』『これがうまくいけば商人としてもまだやっていける。それに君と…』『もう!ルチル…気が早いわよ?』
二人がイチャイチャし始めると、外から騒がしい声と足音が聞こえ、扉が勢いよく開く。
『トルナイト様!すみません!初めての土地で…いや!言い訳はしません!私が迷惑ならもう捨てて下さい!』
地面に頭を擦りつけて謝罪を始めるチルにルチルは肩を掴み、起き上がらせ抱きしめる。
『チル!無事でよかった!それにお前を捨てる事なんてしない!お前が無事で何よりだ』
『トルナイトさまー!ありがとうございますぅ!ありがとうござい…ますぅ…』
泣きじゃくるチルの背中を優しく叩くルチルは思い出したようにチルを腕から離して尋ねる。
『そう泣くんじゃないチル。聞きたい事があるんだ。どうしてバル・バトス様をここに連れて来たのかな?』
『ハイ!ベルが獣人だと言うので、マリーさんに確認して貰おうと!』『それだけ?』『あ、あと、どうしていいのか分からなかったので!』
本当にそれだけの理由で俺をここに連れて来たのかチルは…ポンコツとは聞いたが、ここまでとは……
ルチルから気まずい空気を感じ、扉の向こうで会話を聞いていたベルを見ると逃げるように走り出す。
『そ、そうかチル…分かったありがとう。下がってくれ私はバル・バトス様と話があるんだ』
その言葉にチルは元気な返事を返してルチルから離れて行く。
『バル・バトス様、本当にご迷惑をお掛けしました‼何と言って謝罪をすれば!』
『あ、いや、結果的に治療を受けれることになったので…大丈夫です…』
『そう言ってもらえるとありがたいです…あー!それより騎士団長殿をいち早く治療しなければ!酷い状態なのでしょう?今すぐにでも騎士団長殿の元へ行きましょう!』
これでダニエルが死なずに済み、レイチェルや執事さんも悲しい思いをしなくて済むと思い、安堵する。
だが、ルチルの言う通りダニエルの容態はいつ死んでもおかしくないと言うのも事実だ。
静かに様子を見ていたポッチに話しかける『ポッチ?今から家に戻るぞ』『分かった。布はどこだ?』
布を探すポッチだったが、ここに連れて来られる時に置いていってしまった事を思い出す。
此処にない事をポッチに教えると、これを使えとリクが着ていたトレンチコートを俺に差し出してくる。
『いいのか?』『ああ、無理に連れて来た俺が悪いんだ。構わず使ってくれ』
トレンチコートを脱いだリクは下は黒のズボンで、上は白のワイシャツのような服を着ており、
サイズがあって無いのか、筋肉のせいなのかパツパツで腕は丸太のように太く布にはほとんどシワが無い。
それに受け取ったトレンチコートは材質が何かは分からないが、異常に重たい。
リクの身長を見ればサイズが大きいのは分かっていたが、それを加味してもどうしてこんなに重いのか理解できない。
それをポッチに着させると全身を余裕で隠すほど大きい、そのことに何故かポッチは愚痴を零し、少し不機嫌になるが、我慢してもらい家を出る。
書いてて長くなったので切りました。続きはまだ書いている途中なので、もしかしたら内容が変わるかもです。あと誤字もあるかもなので、申し訳ないです。




