54章 冗談のような出来事
読んでいただいてありがとうございます。3000文字くらいだと思ったのですが、結局3400文字いきました…
一応編集する事は無いと思います。ですが、誤字や勘違いがあれば…するかも……
あの後、必死に走って逃げ回ったが、結局カレンと合流することは無いまま、家に帰ることした。
息を切らし、背中には静かにしているナナをおんぶして、愚痴を零して歩いていると、家が見えて来る。
『クソ…ハァハァ……絶対にお偉いさんだろ…カレンが殴った…やつ…ん?』いつも居るはずの門番たちが居ない事に違和感を感じ、すぐに家に向かって走り出す。
家の中に入るが、何か慌ただしい雰囲気のメイドさん達がバタバタと走っていく後ろ姿が見え、何か良くない事が起きているのか不安に駆られて、ポッチの居る部屋に走り出す。
部屋に着くとポッチや子供達の姿は見えず、ナナを下ろして部屋の中を見て回るが、やはり何処にもいない。
『何所に行ったんだ…』ポツリと言葉が零れると、ナナは俺に近寄って来て、不安そうに俺を見る。
これ以上、不安にさせないようにナナに明るく話しかける『ナナ大丈夫。多分食堂にご飯を食べに行ってるから居ないんだ。それか俺達二人で遊びに行ったことにラニーが拗ねて皆で悪戯してるんだよ』
そうは言ったが、明らかに異常な事が起きているのだと確信していた。
この状況にどうしたものかと考えていると、開いている扉の外から執事に声を掛けられる『バトス様だけ、付いて来てもらってもいいですか?』
その言葉にやはり良くない事が起きているのだと理解し、ナナを部屋に残して執事に付いて行くと少しの間、無言で歩いていたが、言いにくそうに話を切り出す。
『バトス様…落ち着いて聞いてください。ラニーお嬢様が連れ去られました…それに旦那様が…酷い怪我を…』
良くない事が起きていると察しはしていたが、突然そんな事を言われ、理解が追いつかないでいると執事は扉の前で立ち止まる。
ノックをせずに部屋の扉を開けるが、ドアノブに伸びる執事の手にはいつものシミひとつない真っ白な手袋では無く、赤く染まっていることに目がいく。
嫌な予感がしながら部屋を覗くと、目に入ったのは上半身裸のダニエルが机を背に座り込み、腹には布を巻いてはいるが血が滲んでいて、手で押さえている姿だった。
傍にはメイドが傷の手当で使ったであろう、赤色に染まった布を交換していて、レイチェルがダニエルの手を握り、声を掛けながら涙を流している。
この状況に驚き、固まっているとダニエルは顔を上げずに話し掛けて来る『バトスか?…よく来てくれた…ハァハァ…見ての通りだ。初めて此処で会った時、私はキミの腹を殴ったが、今では私の腹に穴が開いて…ウッ!』
ダニエルは咳き込み血を吐いてもなお、まだ話を続けようとするが、顔を上げて俺を見ると苦悶の表情が緩み、口角が上がる。
『ハァハァ…私も酷い目に遭ったが、ハハハ…バトス……キミもその様子だと…フッ…ろくでもない一日だったみたいだな…ハァハァ…呼び出しといてすまない、私は少し寝る…またあと…ではな……』
ダニエルは冗談を言い笑ってはいたが、力尽きるように下を向き、動かなくなってしまう。
部屋が静寂に包まれ、空気がどんよりとして暗くなっていくのが分かる。
最初に動き出したのは執事で手袋を脱ぎ捨てると、ダニエルの腕を持ち上げて脈を調べ出す。
『大丈夫です。旦那様は生きています。ですが…』執事の言葉を最後まで聞かずにレイチェルが突然倒れる。
『奥様⁉奥様!……ふぅ…気を失ったみたいです。ルミール、私は奥様をベットへ連れて行きますので、貴方は引き続き旦那様の手当てをしてください』
執事はメイドに指示を出すと、レイチェルを軽く持ち上げ、扉のあるこちらに向かって来る。
『執事さん。いったい…何があったんですか?』そう尋ねると執事は歩きながら話し出すので、後を付いて事の経緯を聞く。
『突然、全身黒色の服をまとった教会の人達が訪ねて来たのです。そして、旦那様にラニーお嬢様が勇者の仲間の一人である、聖女に選ばれたと言って…』『ラニーが聖女⁉…あのラニーが?』
黒色の服と言う単語に反応しそうになるが、その後の言葉に驚愕してしまい、思わず声に出してしまったが、執事は話を遮った俺に怒る事も無く、真剣に話を続ける
『はい、ラニーお嬢様が聖女だと教会の人達は……一応、何かの間違いではないかと確認する為に、暴れるラニーお嬢様をあの部屋へ私が連れ出したのですが…
教会の人達はラニーお嬢様を見ると、有無を言わずに旦那様の目の前で連れて行こうとしました。
もちろん、納得がいかなかった旦那様は抗議したのですが、その結果…あのような事になりました……
ハァ…何故、手を出すなと言ったのですか…私はいつでも命を差し出すつもりで尽くしてきたのに…』
淡々と話す執事だったが、最後の方は、か細い声だったが怒りというより呆れの感情がこもった口調で話す。
『執事さん?あの…ラニーのお父さんは…助からないのですか?』俺の問いに執事は立ち止まると、こっちを見て話を始める。
『私は昔、旦那様と一緒の戦場に居ました。戦場ではあの傷より酷い物をいくつも見ました。そして、そんな傷を負った者達の中には痛みに負けて、殺してくれと頼んで来るのです。
ですが、旦那様はどんな傷を負っても、戦場では戦い続け、一度も弱音を吐きませんでした。それに彼の二つ名は不死の騎士です。死にません…絶対に…死ぬなんて…』
執事は感情を押し殺そうとするが、涙を流す姿を目の当たりにしてしまう。
その瞬間、ダニエルを治療出来る人物が思い当たるが、絶対に無理だと思ってしまう。
だが、教会の人が傷を治せると、前にラニーが言っていた事を思い出して尋ねてみるが、執事は涙を拭うと首を振る。
『無理です…先程、旦那様は抗議したと言いましたが、正確には剣を抜いて攻撃したと言う方が正しいです。ですから、教会側と敵対した今頃は、話が広まり、帝都の教会では、旦那様を治療する人は居ないと思います』
やはりダニエルを治せる人物は…ボルガしかいないのか…だが、今からボルガの所へ行っても反感を買って殺されても文句は言えない。
迷っていると、レイチェルが目を覚ます『ここは?私ったら。フフッ、恥ずかしいわね。いつの間にか寝てしまったのかしら?それにしてもイヤな夢を見たわ』
いつもの優しい口調で話すレイチェルだが、執事に地面に下ろして貰うと目が合う『あら?バトスさんも居るのね…あらあら!どうしたの!何かあったの?』
俺の姿を見ると心配そうに近寄って服に触れるが、レイチェル自身に付いた手の血を見て、思い出したのか、普段のおっとりとした性格からは想像もつかないほど取り乱す。
『あ、あっあの人は⁉夫は無事なの!私はどれくらい寝てたの⁉』『大丈夫です!お義母さん落ち着いて!お義父さんは無事です!』
俺の言葉にレイチェルは落ち着きを取り戻し、力が抜けたようにその場に座り込むと、よかった、よかった、と繰り返し、涙を流す。
レイチェルのそんな姿を見て、迷いが無くなり、決心する、ボルガに会ってダニエルを何があっても治させる事を。
『そう言えば、ラニーは何処なの?あの子には夫が怪我したなんて言わないで、心配を掛けたく無いの』
レイチェルはラニーが連れ去られた事を知らないのかと、執事に目をやると、俺に軽く頷いてから口を開く。
『はい、奥様。ラニーお嬢様には…この事は黙っておきます。バトス様もいいですか?』執事の言葉に頷くと話を続ける。
『それに旦那様もすぐに良くなります。あとは私が責任をもって旦那様を看病しますので…』
執事は落ち着いた口調で話すと、座り込んでいたレイチェルに手を差し出し、優しく起き上がらせると不安そうなレイチェルに明るく話しかける。
『あとは奥様の作ったエリクサーを飲んだら、旦那様の傷なんてすぐに回復すると思いますよ』その言葉にレイチェルの表情からは不安が無くなり、やる気に満ちた表情に変わる。
『ありがとう、クルツさん。今からエリクサーを作るわ!あと夫が落ち着いたら私に報告してちょうだい!』そう声を上げながらドレスをたくし上げ、厨房の方へと走り出す。
執事と二人で取り残されて、気まずさから、さっきレイチェルから出た名前について尋ねる。
『執事さんのお名前って、クルツって言うんですね』『バトス様。私はその名前を捨てました。そう呼ぶのは今は奥様だけで、私はただの執事です。
では、私は旦那様の様子を見てから、この後の事について色々と処理をしなければなりませんので…』
踵を返して、歩き出した執事を呼び止めて、ポッチや子供達の居場所を尋ねる。
セバスティアン・クルツ 貴族の三男に生まれ、自分は跡継ぎを出来ない事を理解している為、軍人になるが、そこでダニエルと出会う。初めは平民出身のダニエルを下に見ていたが、その圧倒的な武の才能とカリスマ性にクルツ含め、皆がダニエルの事を尊敬するようになる。
時は経ち、戦場で負傷した結果、孤立したクルツの部隊を持ち場を離れてもなお、救いに来たダニエルにさらに憧れと恩を持つ。
だが、その戦場で負った怪我により軍を退き、そこから数十年はひっそりと生きていた。
そんなクルツにダニエルが騎士になったと言う噂を聞き付け、助けて貰った恩義と感謝を伝える為に会いに行くと、ダニエルはクルツの事を覚えており、さらに戦友としてクルツを家族に紹介すると、貴族出身という事もあり気付いたら何故か執事としてダニエルに仕えていた。
前の章で2~3章で帝都から出るみたいな事、言ってましたが、出れる気がしなくなってきました…




