52章 嫌な気配
読んでいただいてありがとうございます。前の51章ですが編集して少し変わりましたが、今回もまた内容が少し変わるかもです。
『何故帝都に⁉』そう声を上げ驚くジョエルに対してカレンはうるさいと怒鳴り、空になったグラスをジョエルに投げるが当たらず壁にぶつかり割れる。
その音にさっきまで静かだったカイルが目を覚まし、頭を押さえ気持ち悪そうに喋り出す『ジョエル…どうしたー?なにが起きた?』
『カイル聞いてくれ!王都の教会連中が帝都に来てるかもしれない!しかも黒の連中だ!』『あークソッこれはなんかあるな…うぅ…その前に…んしょっっと』
ジョエルから話を聞いたカイルはぐったりして動かないダリルの首から腕を放すと起き上がり、ふらつく足で部屋の隅に行ってピッチャーを掴み、直で水を飲み始める。
『黒?…そいつらは何者なんだ?』意味も分からず置いてけぼりの俺はジョエルにそう尋ねると、ピッチャー片手にこっちに歩いて来たカイルが答える。
『あ~水がうめぇ…バトス…そいつらが何者か一言で言えば、やばい連中だ!それも黒となると…』そこまで話すとジョエルが焦る様に声を上げて止める。
『カイル!はぁー…すみません。声を荒げてしまって、バトスさん…私からお話しします。教会に居る聖職者は服の色で位が変わるんです。
白は信徒を表し、赤は司祭と言うように続くのですが…その中で特に黒は王都にしか居なくて、それも普段見かける事は無いのですが…教会に何か不都合な事があると現れるという噂のある連中なんです…』
最後の方は声を潜めひそひそと話すが、そんなジョエルにカイルは声を潜める事もしないで話し掛ける。
『オイオイ、ジョエル。俺が聞いた噂によれば異教徒が居たら、そいつら黒の連中が出て来て、異教徒と思われる人物を暗殺してるって話だったぞ?』『カイル?その話しを誰から聞いたんだ?』
二人が会話を始めるとカレンに急に服を引っ張られ、抵抗できないままソファーに座らされるとカレンは血が付いてることを気にしないで俺の膝を枕にして寝始める。
『えー誰だっけな?どっかの酒場で仲良くなった奴と話した時に聞いたような?…まぁ誰でもいい!そういうジョエルも誰から聞いたんだ?』『それは言えないね。カイルでも流石に…』
二人の会話を聞きながら、カレンの肩を揺らし起こそうとするが、唸り声を出すだけで起きないので、諦めて二人の会話に割り込む。
『なぁ、黒の連中の話は大体分かったから、まず先に教えて欲しいんだが、その教会は何の神様を崇めているんだ?』そう尋ねるとジョエルの雰囲気が変わる。
『バトスさん…貴方は…一体何処からき…』ジョエルは困惑した顔で、俺を見つめ尋ねて来るが途中でカイルが止める。
『おいジョエル、お前の悪い癖が出てるぞ?仕事中でも無いのに相手の情報を探ろうとするな』そう話すカイルは今までに見た事の無いくらい真剣な表情でありながら声には苛立ちがちらついている。
そんなカイルが話し終えるとジョエルは手で目を覆うと上を見上げる『はぁー、ごめんカイル。それにバトスさんもすみません…先程の発言は忘れて下さい。ふぅ…まず何を崇めているのかについてですが…』
目を押さえていた手を下ろすと軽く息を吐き、ジョエルはこの世界の神様について話してくれる。
『まず私が知る限りでは大体二つの神様を崇めていて、基本的には創造神ラウラが創ったとされる五体神を信仰しています』
『創造神ラウラ?五体神?その二つがこの世界の神様なのか?』そう尋ねるとジョエルは首を振り、話し始める。
『創造神ラウラは世界と五体神を創ったとされる神様で、色んな場所で崇められてはいますが、王都では創造神ラウラと五体神の二つを神様として崇めています。
他の国では創造神ラウラか五体神のどちらかを信仰していると思いますが、帝都では創造神ラウラより五体神の教えのみを信じています…って言ってもそんな熱心に信じてる訳でも無いのですが…
まぁその五体神ですが、五体神はこの大地の法則を創ったと言われ、名前の通り五体の神様がいます。生命の神。時間の神。知恵の神。悪戯の神。死の神です』
話しているジョエルにカイルが笑いながら横やりを入れる『バトス聞いたか?二つって言ったのに増えたぞ!』『カイル!もういいって、昔にもそれを教会の人に聞いては困らしてたろ?』
『あれ?あの時にジョエルもいたっけ?なぁダリル?』そう声を掛けるがダリルはぐったりしたまま返事はない。
部屋が静かになるとジョエルは話し出す『カイル?先に大体二つって言ったろ?あの時の牧師さんはそう言わなかったから、バカにされても仕方ないとは思うが…ハァ…続けてもいいか?』
『あー悪い悪い。止めて悪かったな。続けてくれ』そう話すカイルにため息を吐きジョエルは続ける。
『えー確か、王都の教会では五体神はこう教えられています。最初に創られたのは生命の神で人間や植物といったものを生み出したと言われてます。後は、人間や全てのものが産まれ死ぬまでの寿命を生み出したのが時間の神。
人間が生きていく上で体験して学習をする機会を与えるのが知識の神。不幸を感じたり幸福を感じるようにと人間にちょっかいを掛ける悪戯の神。
最後は死の神、これは生前に善い行いをし善人であれば死の神が楽園へ送り、そうでなければ見捨てられ、残された家族に呪いが降りかかると言われてる神です。
そう言った感じで王都では教えられ、その五体神を創ったとされる創造神ラウラが王都の教会では一緒に崇められています』
ジョエルからこの世界の神についての話を聞いているとカイルがまた口を開く。
『チッ何度聞いても王都の教えはクソだな。なぁバトス気付いたか?王都の五体神の教えに人間ばかりが強調されていることに…』
確かに最後の死の神とやら以外は人間を強調してはいるが…どうしてなんだ?。そんな疑問を抱く俺にカイルは話を続ける。
『帝都の教会だと五体神の言い伝えには人間も獣人も全ての物が含まれているんだ。これがどういう事か分かるか?』そう話すカイルにジョエルはやれやれと頭に手をやり首を振ると話し始める。
『カイルが先に説明してくれましたが、帝都では五体神の教えが王都と違うんです。どちらが正しいとは言いませんが、私は歴史の違いだと思います。
帝都は異種族国家で、帝都を建国した初代の王は実力至上主義で、素で力が強い獣人達を受け入れて国を繁栄させました。それに比べ王都は人間至上主義で獣人達は奴隷以下の迫害対象でした。
ですが、はるか昔に勇者の仲間の一人に獣人が選ばれたのです。それも神官として、そこから迫害の対象だった獣人達も扱いがマシになったと聞いたのですが…』
そこまで話すとジョエルは深いため息を吐き、話を続ける。
『王都に行って現状を見ましたが、獣人の象徴でもある耳や尻尾などを切り落とされた、獣人達が人間に混じり仕事をしたり、堂々と表を歩いてました。
帝都で育った私達には異様な光景でしたが、その中には耳の無い獣人の子供の姿もあり、人間の子供と共に耳や尻尾のある獣人達を虐めて遊ぶなど、差別以上の何かを感じました』
『イカレてるよな…獣人の象徴を切り取るなんて…』そう呟き、深くため息を吐くカイルにジョエルは同意するように頷く。
『あの耳や尻尾が可愛いのに…』そうカイルが続けるとジョエルはまた頭に手をやり、やれやれと首を振り、カイルに話しかける。
『カイル?まだあの子と続いているのか?』『え?あー前に紹介したルーちゃんか?その子なら王都に行く前に喧嘩して別れたよ。今は兎の獣人のミーちゃんと付き合ってる。耳が可愛いんだよペタンと倒れてて…』
そう話すカイルにジョエルは俺を見ると咳払いをして、仕切り直すように話しかけて来る『まぁ王都では獣人の扱いが良くないので、五体神の教えにも影響があったのではないかと考えています。
バトスさんも王都に行く際は、あの獣は連れて行かない方が賢明かと…』
『バトス、ジョエルの言う通りだ、王都の連中があの獣を連れてる様子を見たら、教会連中はバトスに何をするか分からない…最悪暗殺なんて事も…』カイルが真剣な声色でそう話すとカレンが起き上がり話し出す。
『ねぇカイル?バルを虐めないでくれる?』『カレン俺は別に虐めてないって!ただ忠告を…』『へぇーそう…まぁいいわ!それで?ジョエル!お金の話しはもう終わったの?』
突然目を覚ましたカレンはイラつきながら、そう尋ねるとジョエルはまだだと言い首を横に振る。
その様子を見たカレンは怒り始める『私が寝てる間にさっさと終わらしなさいよ!いい感じに振り分けたらいいじゃない!そんな事も出来ないの⁉』
怒るカレンに淡々とジョエルが話し始める『私達の取り分が一人当たり三十万ラルで、残りの金額はバトスさんとラニーの分ですが、それでいいですか?カレンさん』
そう尋ねられたカレンは気にする様子もなく、さっきの調子のまま答える『私に聞かないでよ!ジョエルがそう計算したならそれでいいじゃないの⁉』
そのやり取りを見ているとカイルが横に来て囁く『カレンに金額が合わないとか余計な事を言うなよ?ジョエルはカレンが暴れて壊した物とか、飲み代のツケだったりを払ってるから、どうしてもカレンの分配金が少なくなるんだ…』
『わ、分かった、余計な事は言わない』『そうして貰えると助かる。この前、王都から帝都に帰る前に依頼とかの金を分配したんだが、少ないって言って暴れた時は大変だったんだ…』
元気のない声で話すカイルと、目の前で怒るカレンの相手をするジョエルを見てカレンに対する苦悩を垣間見てしまった。
肩を落とすカイルを励ましていると『バル様!何処に行くの⁉……ハァハァハァ…』ナナが目を覚ますが急に声を上げ、勢いよくソファーから落ちる。
そんなナナに声を掛けながら急いで近寄る『ナナ大丈夫か!俺はここに居るから…』
近寄りナナを見るとソファーから落ちたことを気にする様子もなく、息を乱しながら汗をかき、何が起きたのか理解していないのか周りをキョロキョロと見渡す。
名前を呼んで顔を覗き込むと目が合い、飛び込むように俺に抱き着くと荒かった呼吸が落ち着いて行く。
『バトスさんラニーの分のお金を一緒に渡すので今日はもう解散にしましょう』ジョエルが金の入った袋を差し出し、優しくそう声を掛けてくれる。
『ありがとう。でもお金の分配はもうこれでいいのか?』袋を見て多く貰いすぎている気がして、そう尋ねるがジョエルは笑顔で大丈夫ですと言いカイルも良いんだよと言ってくれる。
カレンはまだ空いていない酒瓶を持って近寄って来る『もう終わり?なら!皆でお昼ご飯にしましょう!支払いはラニーちゃんのお金で』そう話すカレンにジョエルとカイルは頭を押さえる。
小さくため息が聞こえると疲れた声でジョエルがカレンに話し掛ける『はぁー…カレンさん?今、お金を渡しますから、それでご飯を食べて下さい…』
ジョエルからお金の入った袋を受け取ると、カレンは持っていた酒瓶を袋に詰め始める。
するとカイルが話し掛けて来る『バトス…マジでカレンに気に入られてるな…まぁ……ガンバレ』
少し間があったのが気になるが、カイルは俺の肩を叩いてからカレンに話しかける『カレン!俺とジョエルは用事があるから飯は遠慮する、バトスとナナちゃんの三人で行きな』
その言葉を聞いたカレンは何も言わず俺の服を引っ張り、少しふらつく足で無理やり外に連れられる。
投稿が遅れて申し訳ない…忙しいんです。色々やることが多すぎる……




