39章 忘れない記憶
読んでいただいてありがとうございます。また編集で変わるかもしれません。
やっと謎スープを飲み切ったと思ったら、レイチェルは鍋からおかわりを掬おうとするので止める。
『もう大丈夫です!お腹いっぱいです!』俺の言葉に鍋から手を放し『そう?バトスさんは意外と小食なのね』そう言ってレイチェルは渋々スープカップをカートに置く。
食事は終えたのにレイチェルは部屋から出ようとせず、いつもの微笑んだ表情ではなく何とも言えない表情で俺をじっと見て動かない。
何も言わないレイチェルに気恥ずかしくなって声を掛ける『お義母さん?どうしたんですか?』その言葉にレイチェルは口に手を当て後ろを向く。
鼻をすする音が聞こえ『ごめんなさいバトスさん…あなたが死んだあの子と重なって…こんな話し嫌よね、ごめんなさい…』レイチェルの顔は見えないが泣いているのが分かる。
『いえ大丈夫です…ラニーから少しですが聞きました。それにお義母さんが辛いのでしたら私はすぐにこの家から出ます』俺の発言にレイチェルはこっちを向き『いいの!ここに居て!少しの間でもいいから…』そう涙を流したまま話す。
こうやって他人だろうが母親が泣くのは見ててこっちも辛くなってくる。
レイチェルにいつもの様に微笑んで欲しくて明るく話す『分かりました。少しですがお義母さんのお世話になります』その言葉にレイチェルはさらに涙を流し『ずっとでもいいのよ?』そう言葉を零す。
『ずっとは流石に…やらないといけない事もあるんで…』そう言うとレイチェルは微笑み『冗談よ、けどラニーと結婚するってなった時はまた戻って来てね』そう言い涙をハンカチで拭く。
あーそうか…まだ恋人設定が残っていたことを思い出し、レイチェルから顔を逸らし『ラニーが良ければそうなるんじゃないですかねー?』と適当に返事を返す。
その言葉にレイチェルは腕を組み話しだす『大丈夫よ!バトスさん!ラニーがもし反対したら私が言って聞かせるわ!』あー終わった…ごめんラニー…ん?待てよ?てかこれってラニーが始めた物語だから後の尻拭いは任せよう…。
バレても全てラニーが悪かったという事で俺の中で話がまとまり『流石お義母さん頼もしいです!』おべっかを言ってレイチェルの機嫌をよくさせる。
だがこのままこの話を続けたらいつかボロが出ると思い、話題を変えようと『あの?…もしお義母さんが辛く無ければでいいんですけど息子さんの話しを聞かせてくれませんか?』そう切り出す。
レイチェルの表情が少し曇るがこっちに来てベットに座り、話し出す『そうね…バトスさんもいずれは知らないといけないものね…』空気が重くなるがレイチェルは続ける。
『名前はティミーって言ってね、よく笑う子で反対にラニーはいつも機嫌が悪そうな顔をしててね、そんなラニーもあの子の前だとよく笑ってたわ』レイチェルは思い出を懐かしむように静かに話す。
『それにあの子は私に似て、言い出したら聞かない性格でね…大変な思いもしたわ。でも夫を一番慕っててね、私の言う事は聞かないのに夫の言う事は聞くのよ?』レイチェルは明るい雰囲気で話すが。
『でも…ちょうど今のラニーと同じ年齢の時に帝都の兵士になったの…それも私と夫に内緒でね…』レイチェルはため息を吐き下を向く。
少しの沈黙の後、話を続ける『夫はあの子が兵士になる事を望んでは無かったのだけど、あの子の本心は違ったみたいで兵士になると言い出した時に初めてあの子と夫が喧嘩をしたわ。
一方的に殴られるあの子が可哀想で私が喧嘩を止めた時にはあの子は兵士になる事を夫は許してくれないと悟って部屋を飛び出し、父のような立派な兵士になったら戻って来るとラニーに言い残して家を出て行ったの…』
『それから数日が経って久しぶりに帰って来たあの子は兵士になったと喜びながらそう言ったわ、私はあの子が無事に帰って来た事に喜んだけど夫は近々戦争が起きる事を知っていたから凄く怒ったの…。
それもあの子を思っての怒りだと私は分かっていたけど、でもその気持ちはあの子には伝わらなくてね…また夫と喧嘩をして家を出て行ったの…』レイチェルの声が弱々しくなり涙を拭く。
『私は心配になって、夫にあの子の所属する隊を調べるように言ったのだけど…夫は私が言う前にもう手を尽くしたみたいでね…多分だけどあの子は偽名を使って兵士になったから夫でも足取りを掴めなかったの…』
『どうして偽名を?』俺の疑問に答えてくれる『当時、夫は次期騎士団長に抜擢されてて二つ名を持つほど有名だったから、特別扱いをされたくなかったのよ…それに偽名のせいで夫にもあの子が兵士になったと伝わる事も無かったの…』なるほど…
『それから消息が分からなくなって一年が経ったときに魔物と戦争を帝都が始めて、夫も戦地に出向いたのだけど、最前線で戦果を挙げて魔物を食い止めている人物がいると聞いても、夫は立場上動く事も助けに行くことも出来なかったの…』
『どうしてですか?』『それはね、夫は騎士だから…騎士たちは女王を守る為に後方で待機してたの…』レイチェルはため息を吐き『戦争が終わって遺体が帰って来た時に分かったのだけど最前線で戦果を挙げたのがティミー…あの子だったのよ…』
レイチェルは声を上げる『でも私は夫を責める気持ちは無いわ!あの子は最後まで皆を守る為に立派に戦ったの!それに夫はあの子が居たから戦争に勝ったと誇らしげに語ったわ…でもその時夫が見せた涙は…』レイチェルは顔を逸らす。
『そんな過去が…息子さんは英雄ですね…』レイチェルは涙を拭き『英雄か…死なずにそう呼ばれて欲しかったわ……ごめんなさい、しんみりしちゃったわね』そう言って無理に微笑む。
『いやこちらこそ、すみません…』この話題を出したのは俺だが気まずくなって黙ってしまう。
俺の様子にレイチェルは立ち上がり『私ったら長居し過ぎね!バトスさんもお疲れでしょ?ゆっくり休んでね!』そう言ってカートを押して部屋を出ようとする。
そんなレイチェルを止め『お義母さん!スープありがとうございました!美味しかったです!』そう伝えるといつもの笑顔で『ありがとう。また来るわ!』そう言って出て行く。
静かになった部屋で横になり改めてここが異世界なんだなとしみじみ感じ、色々考えていると尿意が襲って来る『どうしよ?てか…俺が意識が無いときどうなってたんだ?』
嫌な想像を振り払い叫ぶ『ポッチーー来てくれーー‼』思っていたより小さい声しか出なかったが扉が勢いよく開き『使徒様!どうした!敵か⁉』そう言って辺りを警戒しだす。
ポッチの慌てた様子に後からラニーやナナも心配そうにこっち来る『急にどうしたんですか?』ラニーがそう訊ねて来るが『いや大したことじゃないんだ!ポッチだけに用があって…』そう言うとラニーは何も言わず部屋を出て行き、ナナに目を合わせると逃げるようにラニーを追う。
まだ周りを警戒しているポッチに『ポッチ敵は居ない。ただちょっと手を貸して欲しくて呼んだんだ』そう告げると『なんだ…それで?俺は何をすればいいんだ?』少し落ち込んだ様子でこっちに来る。
『ただ俺をトイレに連れて行って欲しくてな…』少し恥ずかしさがあるがそう伝えると『分かった!』そう言って俺をベットから運んでくれるが荷物のように肩に担ぎ運ぶ。
運ばれる状態にデジャブを感じ『ポッチに村に連れて行かれた時を思い出したよ…今』そう小さく呟くが俺の言葉にポッチは笑い『確かにそうだな!それに今喋ると舌を噛むぞ?』そう優しく話す。
ティミー・クロス ダニエルのように帝都の兵士になろうとするが戦争の悲惨さを知っているダニエルはティミーに同じ思いをして欲しく無くて自身の身を守る程度の訓練しかさせなかった。
父親が戦争で無茶な戦いをしても戦果を挙げ、死なずに帰って来ることから不死の騎士という二つ名がある事を友達から聞き、さらに憧れを持ち兵士になる事を望んだがダニエルからは反対され殴り合になった。
ダニエルに一方的に殴られ自分の無力さにショックを受け家を飛び出し、偽名を使って兵士に入隊して目立たないように過ごした結果、戦争が始まると捨て駒のように最前線送られたが父親譲りの戦の才能を発揮し戦果を挙げたが戦いの経験が足りず引き際を誤り戦死する。
この戦争は増えすぎたゴブリンが帝都近くの森に集落を作った事が気に食わない女王の気まぐれだったが表向きは魔物が帝都に侵攻したことによる戦争となっている。




