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過去に縋る者達の

作者: Mizuna

太宰が描く女性の強さはこの世にあるわけねぇと思って書いてます


僕の人生は文の上だった。

小学生の時に不登校になってからは籠城だ。まるで空のペットボトルのようだった。何も詰まってない時間を過ごした。ネットでしか会話をせず、通話とチャットの毎日だった。いつも画面と向き合って、なんとか精神を保とうとしていた。

僕は1人じゃ何もできないんだと知ったのは小学四年生の時だった。

消しゴムを拾ってくれたあやかちゃんも、連絡帳を写させてくれたりなちゃんも、鉛筆を貸してくれたひなちゃんも、皆んな僕に力を貸してくれなくなった。いつも僕を助けてくれたのに、四年生になってからパタリと貸してくれなくなった。確かに助けてなんて言ったことはなかったけど、急にみんなが変わり出した。それからずっと、僕だけが置いていかれた。

縄跳びだってそうだ。僕の番から急に早くなった、タン、タン、と縄が回っていたのに、僕の時だけテンポが早くなる。なのにミスをしたら皆んな冷ややかな目で僕を見た。ある時は水筒の紐が切れていた。僕は次から紐がない水筒をつけて行った。ある時は鉛筆がなくなった。それも5本なくなった。だけど誰も貸してくれなかった。鬼ごっこでルールが追加された。僕だけが入れなくなった。ドッチボールは僕だけが狙われた。僕は、僕は、僕は、。こんな毎日だった。ある日急に殴られた。同い年のゆうきくんに。やっと救われるんだと思った記憶がある。なんでそんなことするのって聞いた時に、間抜けだからって言われた。4人くらいの男の子が笑い始めたんだ。ああ、そうかと理解した時に「1人じゃなにもできないんだ」と、自分を責めるように言葉が出てしまった。また顔を殴られた。でも僕は救われると思った。これでやっと先生に言える気がするんだって。職員室で面談することになった。先生も含めて6人で。先生はゆうきくんに質問してた。どうして殴ったのか。ゆうきくんははっきりと「こいつは殴ってもいいやつ」と言っていた。それ以降を思い出したくない。

僕は人の心を読むのが苦手だった。というより、会話が苦手だった。相手の言葉通りの意味が取れなかったからだ。そして体が弱いのも相まって、僕はよく標的にされていた。

「久人、もうすぐご飯」

「ご飯らしいから一旦落ちます。サクさんちょいまっててください」

ガタッとヘッドホンと椅子を動かして、スタスタと母親の元に立ち寄った

「今日のご飯何?」

「まだ決まってないわ。お皿とお箸取って置いといて。お母さんの分も用意しておいてくれたら嬉しいわ」

「ねー用意してないなら呼ばんでよー。もうちょっとゲームできたじゃん」

「はいはい。早く用意して。あ、あとお父さんが長野行きたいって言ってたから今週末ついでにおじいちゃんのとこにも行くよ」

「え、予定あるかもなんだけど、てか今日金曜じゃん、明日じゃん」

なんて言っても通らないのが世の常なので

「サクさんお待たせしました〜言ってた通り昔やってたゲームしましょ」

「うん。とりあえずワールド作ったから入ってぇ。でどーする?とりあえず何する?」

「何するってさっき言ってたゲームでしょ。あ、ゲーム内の話ですか?」

「そーだよーなにする?」

「うーん、まず木こりから始めて、作業台作って、それから」

「それはしってるよー。そうじゃなくて、目標の話〜」

「えー、まあ地下帝国作りましょうか」

「ハードル高いねぇまあそういうの燃えるからいいけどね〜」

「も、もえるんすか」

中学三年の春休み、僕は長崎に来た。蕎麦を食べ湖を見て明日はボートにでも乗ろうと車中で言って旅館に着いた。「どうする?私は今からお風呂行くけど2人はお風呂いつはいる?」「久人、久しぶりにお父さんとはいるか!」「えーまあ、お父さんが言うなら入ろうか」「その前にお茶、取ってきてよ久人、お願い」

「わかったよ。晩御飯食べたところだよね?置いてある場所」

「うん。あ、そうだ。ちゃんと一言いってから取ってきてね」

「わかってるよ」

カランッと乾いた鈴の音を鳴らすドアを開けて、少し軋む床を通って、奥でさっきのご飯の残りを片付けて皿洗いをしてる男の人に一言

「こんばんわ〜!」

と一言いれ、お茶を持って行った。

両手が塞がっていたからドアは閉めれなくて、それが少し気がかりだったけど、そんなことはすぐに忘れて、両親の元へ向かった。

「ただいま〜ちゃんと挨拶してきたよ」

「お父さんドア閉めてもらってもいいー?って、え、挨拶?」

「うん。一言っていうから」

「あー、そっかそっか」

「何かダメだった?」

「いや、お母さんの言う一言っていうのは、持って行ってもいいですか?の意味だったから」

「そうなんだ、この緑茶美味しいね。長野って緑茶有名なの?」

「いや有名じゃないと思うけど。あ、お母さんこれからお風呂入ってくるから。2人ももうそろそろ入りなさい」

「はーい」

と、2人で声を揃えて、数分経って僕たちも足を進めた。

正直、思い出に残っているのはこれくらいだ。

おじいちゃんの家に行って、お世辞を言ってもらったり、おじいちゃんとお父さんからは学校について聞かれると思っていた。きっと2人なりの心遣いなんだろうと思って、また僕は1人では何もできないと思わされた。

二年も月日が経った頃、お母さんが昼ごろ家に帰ってきて、ずーっとリビングで座っていたのを覚えてる。どうして急に帰ってきたの?なんて、聞けるほど僕は豪胆ではなく、繊細な母を壊してしまう何かがあったんだと頭によぎった。

でも、お母さんがこうなったのは当たり前なのかもしれない。僕はずっとこのままで、きっとお母さんは不安だったんだ。それでこんなことになっちゃったんだ。と、思った時に僕は不登校をやめたいと思えた。幸い僕が通っている高校は通信制ではなく単位制だ。週に二、三日行っていたところを毎日に変えれば、脱不登校と言えるのではないかと思った。正直、この高校生活でも十分に学校に行っている、と思えていたし、母親もそう思ってくれていると思っていた。だから甘えていた節があったのかもしれない。でも、ダメだと思わされたから僕は、僕は


僕は学校に行った。ひどく怖い人間の視線を、教室を開けたら皆に見られていると思う疑心も、授業が始まると聞こえる貧乏ゆすりのガタガタとする音も、鉛筆の引っ掻くような、叩きつけるような、高いような鈍いようなギリギリとした音も、風のびゅう〜と靡く音も、電球の甲高いキーンとした音と、全てを我慢して、毎日、毎日行った。お母さんは不安がっていたけど、逆に僕はお母さんが不安だった。

「久人、最近頑張りすぎじゃない?体を壊したら元も子もないのよ?」

「ううん。大丈夫。いままで心配かけてごめん。僕、もう少し頑張るからね。お母さんを不安にさせたくないんだよ」

「学校に行けなくても不安じゃないわよ。あなたの体の方が心配で不安よ」

「私も久人と同じで家にいようかしら」

「僕たち生きていけなくなっちゃうよ!」

なんて、言ってくれて、笑い合って、本当に、僕は本当に心がじんわりとあたたかくなり、オレンジ色に染まっていくのがわかった。

そして、母親が犯罪の色に染められているのもわかった。

お母さんは36歳で、決して手を出される年じゃなかった。確かに綺麗だとは思う、顔も整っているし品もある。でも、母親だし、なんでってなった。家に帰った時にはタバコ臭い嫌な匂いだけが残っていた。わかったのは、警察の人の話だった。お母さんがいつもは僕より遅く帰ってくるのに、時折、僕より早く帰っている時があった。それは早上がりで帰ってきていたんだと、残業がないだけなんだと思っていたのに。

お母さんはその日から壊れたわけじゃなかった。

薄々わかってた、僕が原因じゃないって。でも、少しでも和らいで欲しくて、自立した姿を見せたくて、不安になんなくていいよって、悩んでる問題を一つでも少なくして上げたくて

「久人、なんで、なんでお前家にいなかったんだよ、お前不登校じゃないのかよ、家守ってんじゃねぇのかよ」

「ぼ、僕、ここ最近は学校行ってて、お母さんに、心配させたくなくて、僕で、苦しんでるんだと、思って」

「でも、でも、俺は」

「…ごめん。なんでもない、当たってすまん久人。まだ混乱してて、学校行ってたんだな、話聞いてやれんくてごめん」

母さんは死んだ。上司にレイプされて、報告したら飛ばされると言われたらしい。早く返された時に上司が家まで着いてきて押し問答になり、上司が殺したらしい。そのあと上司は自首をして10年以上の懲役…で終わった。僕は私立の高校に通ってて、お父さんはおじいちゃんとおばあちゃんのお世話をしなきゃ行けなくて収入はいい方ではない。…と思う。そこまではよくわからなかったけど、でも、そんなに追い詰められているなら言って欲しかった。いや、僕があの時家にいたら、まだ生きていたのかもしれない。

僕もおじいちゃんの家に住むことにした。学校も通信制の安い高校に変えた。卒業したら働こうとも思った。高校在学中に資格を取ることにした。災厄、障害者雇用もありだと思った。

僕は発達障害で、自閉スペクトラムという診断が降りている。言葉の裏を読むこともできない、母親の心情も理解できない。そんな僕だから、こんなペラペラな人間になったんだと思う。500ccの水を飲み干して、僕は言った

「僕はね、お父さん。母さんのために生きようと思うんだ」

「そんなことしなくてもいいんじゃないか。誰かのために生きるのは、死ぬことよりも辛いんだから」

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