暗街での戦闘
コツンコツンと杖をつきながら老人が町の大通りを歩いている。都市とも言える規模であれば、この時間も多くの店が開いていることだろうが老人が住む町は小さな町だ。老人は仕立ての良いスーツを着て、頭にはブランドのシルクハットをかぶっている。等間隔の街灯が暗闇を照らしている。それは同時に老人も照らしていた。豊かに蓄えられた白髭は綺麗に切り揃えられており、毎日手入れをしているようだ。鷲のように鋭い目と整った鼻は貴人の風格を漂わせていた。老人の名前はグランツ。かつては『白銀』と称され、多くの戦場で名を馳せた歴戦の兵士だ。そんな彼も兵士を引退してからもう10年以上経つ。グランツは退役後、故郷の町で政治家になった。戦争と政治はなかなか勝手は違ったが、どちらも同じ戦場だ。グランツは順調にキャリアを重ね、時期町長と言われるまでになった。グランツ自身ももちろん乗り気である。今日は大都市から招いた客人と遅くまで会食をしていた。酒で火照った顔を夜風で冷ましながら、帰路につく。
「おい若造ども、何かようか?」
おもむろに立ち止まったグランツは背後に視線をおくる。魔法と電力の半分ずつで照らされた街灯が少し揺れる。グランツは一直線に飛んできた二本の短剣を杖で叩き落とす。グランツの杖はオーダーメイドの仕込み杖である。路地裏から出てきた男たちは目出し帽を深くかぶり、両手には短剣を構えていた。
「なんだお前ら、どこの回しもんだ?」
グランツは心の中で詠唱を始める。暗殺を食らうのは久方ぶりだ。
「お命、頂戴。」
男がじりじりと距離を詰める。グランツは国力の低下を感じた。
「最近の暗殺者は喋るんだなッッ!!」
グランツは地面を局所的に凍らせた。暗殺者は動くことができない。足の部分が凍ってしまったのだ。
「なあお主ら、命は大事にするんじゃぞ?」
「ちょっとまッッ!!」
グランツは男たちの首を叩き斬った。
『白銀』はいまだ健在である。
こういった作品を毎日投稿して、たまったら連載にしようと思います。