表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/4

もしも春の推理2022のテーマが「ラジオ」だったら  【題名】:ラジオスターの復活

この「春の推理」のテーマシャッフルは、このメンバーで固定しようかな、と考えています。

もしも春の推理2022のテーマが「ラジオ」だったら

【題名】:ラジオスターの復活



 警視庁サイバー課の特殊対策室。

 ここは特に解決困難なサイバー犯罪を扱う、少数精鋭のチームだ。


 室長は房洲(ぼうす)警部。職員は才羽(さいば)夢野(ゆめの)八洲彦(やすひこ)、そして夢野(ゆめの)奈歌(なか)

 夢野の2人は兄妹だが、妹の奈歌は室内のモニターに映っているので、この対策室内には実際には居ない。

 この理由については、前作の「もしも春の推理2023のテーマが~」を読んでいただくと助かります。(謎の声)


 さて、そんなエリートの彼ら。今日もPCを前に仕事をしているかと思いきや……。


「夢野。さっきからお前は何をやっているんだ?」


 房洲警部が右耳につけたイヤホンのケーブルを伸ばしたり巻き戻したりしている夢野八洲彦に問う。


「この間買った携帯ラジオなんですがね。この巻き取り式のイヤホンケーブルがアンテナも兼ねているんですよ。でもこの室内だと感度が悪くて、上手く受信できないんです」


 八洲彦が胸ポケットから手のひらサイズの携帯ラジオを出す。

 選局はボタン式で、好みの放送局のプリセット設定ができ、大きな液晶画面には、選局中の放送局と時刻も表示されている。


「で、ラジオで何の情報収集を?」


「えっ、ただ落語を聞いてただけですけど」


「夢野……。やっぱりお前犯人だろ」


「ちょっ、まだ何も事件起こってないじゃないですかっ!」


 さて、恒例のやりとり(?)を終えたところで、才羽が室内に入って来た。


「大変です! YouTubeで現行の犯罪が取り押さえられた動画がアップされました!」


「な、なんだってー!?」


 このナントカ調査班なみたいなやりとりも、このシリーズの恒例とさせていただきます。



「私人逮捕系ユーチューバーだと!?」


 房洲警部がそのYouTubeを見て呟く。

 ちょうど場面は電車内の痴漢の現行犯を取り押さえた、このユーチューバーがカメラ目線で発言をしている。


「このように痴漢被害に遭う女性は後を絶ちません! 私は痴漢被害だけでなく、あらゆる犯罪の現行犯を取り押さえます! 日本の警察は頼りになりませんからね!」


 一同は唸る。確かに警察が二十四時間日本中の隅々まで巡回していることなど不可能だ。

 なので、私人逮捕は別段違法行為ではないのだが、近年この種の犯罪の取り締まり活動の一連を動画にアップする、私人逮捕系ユーチューバーなるものたちが注目を浴びている。


「私人逮捕って、たまたま犯罪に出くわした時に行うものなのに、この人は普段からパトロールみたいなことをして、犯罪行為を取り締まっているんですか?」


 八洲彦のスマホの画面に現れた奈歌が状況の確認をする。


「どれだけヒマなんだよ! 安全を守りたいのなら、別に警察や自衛隊に入れ、とは言わないが、消防団とか警備会社とか、人手の足りないところがいくらでもあるだろ!」


 八洲彦が叫ぶと、才羽が冷静に分析する。


「まっ、単純に収益でしょう。なので、実は注目を集めるために裏工作をしているとも言われています。このユーザーは以前よりその疑惑がもたれています」


 確かにコメント欄には「ヤラセくさい」等が一部ある。


「……教唆か」


 房洲警部は裏で誰かに犯罪の教唆を行ない、自作自演の過激な逮捕劇の動画作成をしているのでは、と推測した。

 そして、八洲彦に命ずる。


「このユーチューバーの全動画を確認するんだ、夢野」



 数日後。


「では簡単にこのユーチューバーの説明をします」


 対策室で全員が揃う中、八洲彦はホワイトボードに書きながら言葉を発する。

 仮にこのユーチューバーを「A田」としておく。


「まず、A田のアカウント登録は今から8年ほど前。当初は1カ月に1回更新のゴミ拾い動画が主です」


 室内のモニターの奈歌が補足する。


「かなりの削除された動画がありました。おそらく私人逮捕系の活動家として不要な、コミケなどのイベント等に行った際の趣味系動画を削除しています。元々そっち系がメインだったようです」


 八洲彦が続ける。


「2年ほど前。つまり今の活動を本格的に始めています。最初は同じく電車内の痴漢逮捕でした。これをアップしてから登録者数が飛躍的に伸びています。それに合わせ過去のゴミ拾い動画が再評価され、A田は著名となりました」


「つまりこのA田が今やっているのは、ゴミ拾いと痴漢現行犯逮捕なのかね」


 房洲警部が言うと、才羽が反応する。


「ですが、半年ほど前から、奇妙な動画が定期的にアップされていますね」


 その奇妙な動画とは……。


「タグに『#逃走犯人』とつけられたやつです」


 才羽が説明をする。

 全身真っ黒な服。フードで覆われた頭。サングラスと黒マスクの人物が、例えば無人販売店から商品、または現金を盗もうとするが、なぜかこのA田が現場に突如として現れ、犯行の阻止に成功するも、結局犯人は逃亡してしまう動画だ。

 この動画の終わりは、いつも同じような構成になっている。


「ハァハァ……。またヤツに逃げられた。申し訳ありません。今度こそあの逃走犯を捕まえます!」


 テレビ番組の24時間警察のような凝った演出で、この種の動画が10本以上もあがっている。

 それ故、コメント欄では「この2人グルなんじゃねーか」、「ヤラセだろ」、「マッチポンプじゃね」等だ。


「毎日電車に乗って、痴漢現場に遭うなんて、そうはありませんからね。冤罪なのに恐喝して、逆に警察に捕まり、アカウント削除された私人逮捕系もいますからね」


「ゴミ拾いだけでは流石にあまり視聴や登録が伸びないので、A田はこのようなドキュメンタリー風の自演の犯罪動画を作っているのでは、との疑惑があります」


 八洲彦と才羽がまとめると、房洲警部はモニターの奈歌に命じた。


「夢野奈歌。このA田の端末を探って、ダイレクトメッセージなどで、犯罪を教唆している形跡がないか調べてくれ」


 奈歌は了承すると、モニターはプツンと切れる。奈歌はネットワーク内の世界へと入って行ったのだ。



「彼の所持しているスマホ、PC、タブレット。全て確認しましたが、そのような犯罪を指嗾するメッセージは一切確認されませんでした」


 翌日の対策室で夢野奈歌は報告する。八洲彦が首を捻る。


「……『手紙』とか、そういった方法で連絡、つまり『メッセージ』のやりとりをしているのかな?」


「兄さん、『手紙』も『メッセージ』も別のテーマだから!」


 そう、「手紙」や「メッセージ」にしてしまってはテーマ違いだ。って何の話だよっ!?


「ですが、彼が登録していたチャンネルにある別の私人逮捕系ユーチューバーがいました。この人物はA田より以前から痴漢逮捕の活動をしていました」


 だが、このユーチューバー(仮に「B川」とする)は実際にはやっていないのに、無理やり痴漢犯だと誤認逮捕し、更に逮捕した後に恐喝を行なった。

 誤認された者が警察に相談し、捜査結果後に逆に逮捕された人物である。

 その後、示談が成立し、B川は起訴されなかったが、同種の恐喝を何度か行っていた事が次々に判明し、当然アカウントは削除され、彼の動画は今や全て視聴不可だ。

 約1年近く前の事である。


「つまり、このA田はこの逮捕されたB川に刺激され、同種の動画をアップするようになった、のか?」


 この逮捕されたB川は、現在ユーチューバーとしての活動をしていない。

 新規アカウントを作りたくても不可能なのだろう。


「つまり、両者には繋がりはある。そしてこのアカウント削除されたB川を、A田が金銭を渡して犯人役にして、犯罪ドキュメンタリーの動画作っている……」


 飛躍した推理だが、調査する必要性はある、と房洲警部は考える。


「夢野八洲彦、奈歌。2人は改めてこの両者の動画を徹底的に確認するんだ」



 またも数日後。

 対策室の奈歌のモニターでは、東京都を中心にした図が映り、赤い点と青い点が点在している。

 23区内にほぼ集中しているが、多摩地域や埼玉や神奈川や千葉方面にも少しある。


「赤は今回のA田の活動場所。青はアカウント削除されたB川の活動場所です」


 奈歌の声がする。当然彼らはモザイクを多用した動画をアップしているが、奈歌によって削除済みも含め、全撮影場所は特定されていた。


「○○区で両者の活動がかなり重なっているな」


「○○区は、例の『#逃走犯人』シリーズの場所です。それも全てです」


「そこで偶然知り合ったのか?」


 奈歌が重大な情報を報告する。


「実はA田とB川のコラボによる、万引き犯追跡動画がありました。場所は○○区です。B川の逮捕後、A田はこのコラボ動画を削除しています」


 確実に両者は知り合いだ。だが、両者は今どのように連絡を取っているのだろう?

 固定電話か?

 しかし、現場近くでの厳密な打ち合わせも発生するだろうから、固定電話だけでは限界がある。


 八洲彦が発言を求めた。

 彼も何かを発見したらしい。

 普段から、上着の胸ポケットに携帯ラジオを入れている彼だから気づいたのだ。


「このゴミ拾いの動画を見て下さい。A田の上着の胸ポケットに注目して下さい」


 最近アップされたA田のゴミ拾い動画だ。ポケットに何かを入れているらしいのだが、アンテナのようなものが飛び出ている。


「何だ? 携帯型ラジオか?」


「いや、これは携帯型トランシーバーだ!」


 2人はトランシーバーでやりとりをしている……!?

 両トランシーバーでコード入力されたプリセットから互いに会話をしていたら、傍受されることはない。

 だが、ここは警察。無線通信は、事故や事件、また災害時の迅速な連絡手段として、最も充実している機関の一つ。


「無線通信に詳しい人員を要請するので、その者と共に○○区での張り込みだ!」


 房洲警部が言うと、一同は「了解!」と返答する。



「民間でのトランシーバー使用は、イベント会場やレジャー施設、または工場や倉庫と限られていますので、このような街中で、飛んでいる電波があったら、この両者と特定して間違いないでしょう」


 ○○区のとあるショッピングモールの駐車場。

 無線通信の専門家の捜査員が、大型の覆面の警察ワゴン車内の後方で、大掛かりな通信装置を操作している。

 ワゴン車の運転席に才羽、助手席に八洲彦が座っている。

 奈歌は八洲彦のスマホの中だ。


「あとは、まぁこいつか」


 八洲彦は設置されている警察の車載通信機を軽くつつく。

 タクシーを初めとする業務用無線機だ。

 このような無線は出力や帯域や暗号化が特別なので、個人レベルで使用する通信機との判別は容易である。


 つまり、トランシーバーとは、受信だけでなく、発信も出来るので、ある意味無線基地、つまりラジオ局と言っていいだろう。

 出力の低い携帯型のトランシーバーは免許や登録を必要としないものが多いが、それでも1キロから5キロ間の送受信は可能な機器もある。


「来ました! 音声流します!」


 無線の操作員が叫び、ワゴン車内に緊張が走る。


「……下調べはした。監視カメラは店内のみ。店外からの防犯カメラは200m以内にはない。どーぞ」


「……トレーティングカードの販売店ですね。警報装置とかはどうですか? どーぞ」


「……警報装置はない。むりやりピッキングをしても警報は鳴らないはずだ。どーぞ」


 八洲彦のスマホから奈歌の声が出る。


「この両者の声はA田とB川です!」


「録音はしているな!」


 才羽の声に操作員は応じる。


B川「5日後の店じまい後の午後9時過ぎに、この店に俺はピッキングをする。お前はそれを3分後くらいに発見して、俺を追い掛けろ。どーぞ」


A田「了解。ピッキング実行前に、改めてご連絡下さい。俺はその店から200mほど離れた所に潜んでいます。どーぞ」


 5日後にA田が逮捕役、B川が犯人役の犯罪ドキュメンタリー動画の打ち合わせだ。

 ○○区で有名なトレーティングカード店は、既に奈歌が洗い出していた。

 1枚で1万円以上のカードを多く揃えている店だ。間違いなくここだろう。


「5日後に当該箇所に人員配置をして現行犯逮捕だ!」


 八洲彦が叫び、5日後を待つ事になった。



 当日の午後8時半。B川がピッキングを行なうと考えられるトレーティングカード店の周辺に私服警官が数名待機している。

 八洲彦と才羽たちは、覆面ワゴン車内で、店から500m程離れた駐車場内で指示を出す。


 午後9時過ぎ。ワゴン車内に傍受した音声が流れる。


B川「こちらB川。店の近辺に居る。今より1分後にピッキングの真似事をする。どーぞ」


A田「こちらA田、了解。その3分後に発見をします。懐中電灯を強く当てるので気を付けて下さい。どーぞ」


 そして、実際に黒ずくめのB川が店の鍵を開けようと、ピッキングを初め、約3分後にA田が現れ、「何をしているんだ! この窃盗犯!」とスマホで動画を撮りながら近づく。


 B川は逃走し、A田は追う。

 だが、両者はそれぞれ控えていた私服警官に捕えられた。


A田「何をする! 俺は犯人を追い掛けていたんだぞっ!」


「A田、B川。各自確保しました」


 警官が無線でワゴン車内で待機していた八洲彦たちに報告する。

 こうして自演の私人逮捕系動画作成者たちは逮捕された。



「……初めはゴミ拾いとか、真面目な事をやっていたのに、こんなエスカレートをするなんて。いや、私も同じ事をしていたのだから、何となく、A田の気持ちは分かるな」


 捜査室内のモニターで奈歌がうなだれる。


「奈歌。お前はもういいんだ。その力をこれからも発揮して行こう」


 兄の八洲彦が慰める。

 A田もアカウント削除され、全ての動画が見る事が出来ない状態とされた。

 善意の活動が犯罪まがいへのエスカレート。捜査室内は粛然とする。


 数日後。

 相変わらず、八洲彦は仕事中に携帯ラジオを聞いている。

 ちょうど、バグルスの「ラジオスターの悲劇」が流れていた。


「確か、『ユーチューブがビデオスターを殺した』とかいうパロディ曲があったな。だが、今回はラジオ愛好家がユーチューバーを懲らしめてやった……!」


「だからって仕事中にラジオを聞く事は許されんぞ」


 房洲警部が八洲彦に注意すると、八洲彦はイヤホンを収納し、携帯ラジオを切り、仕事に集中するのであった。


もしも春の推理2022のテーマが「ラジオ」だったら

【題名】:ラジオスターの復活 了


……そして、物語はある動画を撮ろうとする者へと続く。

■反省点

これって、「メッセージ」の箇所を強調したら、今年の「春の推理2024」に出せたのは、と思っています。


■注

作者はこの種の動画を見たことがないので、ニュース報道と想像で書いています。

実際の投稿者をモデルにしていないことを明記しておきます。



【読んで下さった方へ】

・レビュー、ブクマされると大変うれしいです。お星さまは一つでも、ないよりかはうれしいです(もちろん「いいね」も)。

・感想もどしどしお願いします(なるべく返信するよう努力はします)。

・誤字脱字や表現のおかしなところの指摘も歓迎です。

・下のリンクには今まで書いたものをシリーズとしてまとめていますので、お時間がある方はご一読よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■これらは発表済みの作品のリンクになります。お時間がありましたら、よろしくお願いいたします!

【短編、その他】

【春夏秋冬の公式企画集】

【大海の騎兵隊(本編と外伝)】

【江戸怪奇譚集】
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ