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 目隠しをして恐る恐る前に進む新を背後から撮影しながら下層帯のダンジョンを進む。


「ヤマダ、どうだ?」


「意外といけますね」


「そうかよ。そこ、地面に穴が空いてるぞ」


「ひえっ!」


 新は急に立ち止まる。気を抜いていたのでぶつかりそうになるがすんでのところで止まれたのでセーフ。


「冗談だよ……ん? ユニコーンか?」


 少し先の方を見ると白い毛並みをした馬のようなモンスターがこっちを見ていた。頭からは鋭く細い角が生え、トリートメントをしたかのようなサラサラのたてがみは白を通り越してもはや透明だ。


「うぇっ!? モンスターですか!?」


「あぁ。戦ってみるか?」


「それって上長命令ですか? 万が一怪我をしたら労災っております?」


「怪我はしねぇよ」


「そうなんですか?」


「する前に俺が助けるからな」


「おぉ……強者の余裕……」


 新とぐだぐだと話しているうちにユニコーンは俺達の方へと接近してくる。だが敵意は感じない。


 むしろ「クゥン」と甘えるような声を出しながら新に顔を擦り付けている。


「ひゃっ! こ、これは……」


「なんか懐いてるな……モンスターにしちゃ珍しいやつだな」


『ユニコーンが懐く……つまりヤマダちゃんは……』


『ユニコーンリスナーもアップを始めました』


『ムホホ展開ありますか?』


 このコメントは拾わない方が良いだろう。ユニコーンは処女を好むとされるモンスター。つまり新は……いや、まぁだからなんだという話だが。


「ちょちょ……舐めないでよぉ! こそばゆいからぁ!」


 ユニコーンは目をハートにして新に絡み続けている。ただのエロオヤジじゃないか、こいつ。


「おーい、そろそろ離れろよ――うわっ!」


「ガルルル……」


 人懐っこいやつだからと油断して俺もユニコーンの体を触る。その瞬間、歯をむき出しにして俺を威嚇してきた。


「なっ、なんだよ……」


「ふっふーん。このユニコーンちゃんは私の魅力に気づいてるみたいですね!」


『課長に懐かないということは課長は処女じゃない!?』


『ケツアナ確定したことあるってこと?』


『課長は俺達の仲間だと思っていたのに』


『目隠しが大好きな変態なのに童貞じゃないだと!?』


『素人童貞説ワンチャンあるか?』


『そもそもユニコーンは童貞に懐くんか?』


『検証するか。俺達の出番だな』


 コメント欄は言いたい放題。まぁこちとら子持ちのオッサンだしな。


「今日はテスト配信だし、他のモンスターが出てくる前に帰るか」


「はい! またね、ユニコーンちゃん!」


 新は目隠しをしたまま、まるで見えているかのようにユニコーンの頭を撫でる。目隠しにもかなり慣れてきたようだ。


 ユニコーンに見送られ、新を背後から撮影しながら出口の方へ向かっていると、背後からパッカパッカと馬の走る音が聞こえた。


「危ないっ!」


 振り向くこともせず、新を抱きかかえて脇に飛んで避ける。


 さっきまで優しかったユニコーンは嘘のように興奮し俺達の横を走り抜けていく。どうやら俺達二人を角で突き刺そうとしていたようだ。


 狙いは俺達ということは変わらないようで、少し離れたところで旋回して狙いを定めるように角を構え、地面を足で蹴っている。


『ユニコーン発狂wwww』


『この配信にユニコーンリスナーはおらんやろ』


『ヤマダちゃんガチ恋勢という幻獣』


 コメントはまだまだ盛り上がりそうだが、こっちはユニコーンをさっさと片づけないとだ。


「あたっ、ヤマダ! 戦えるか!?」


「いっ、行けますか……? あっ!」


 新はアタフタしながら武器を構えるも、さすがに目隠しをした状態でいきなり戦闘をする余裕はないようで武者震いをした拍子に地面に剣を落としてしまった。


「仕方ないな……」


 自慢の角を向けて突撃してくるユニコーンに向かって駆け出す。


 目隠しをしていないし、下層のモンスターなのでなんてことはない。


 ぶつかる直前で身体を捻ってユニコーンの角を躱し、その角を切り落とす。


「ヒーン!」


 ユニコーンは角を切断された衝撃なのか痛みなのかに悶えながらダンジョンの奥へと去っていった。


「ほっ……た、助かったぁ……」


 腰を抜かしてへたり込んでいる新に近づき、手を伸ばして立ち上がらせる。


「まぁ……まずは上層からだな。いきなり目隠し下層はハードル高かったよな、すまん」


「それを言うといきなり深層からスタートしてる課長はどうなっちゃうんですか……」


「ま……まぁまぁ」


「あ! そういえばリスナーの皆さん! さっき課長の顔映っちゃったかもしれないですけど切り抜き禁止ですからね! アーカイブも後で編集するのでお願いします!」


 そうか。ユニコーンに向かっていった拍子にカメラの自動追尾のフォーカスが俺の方を向いていたのか。


 緊急事態なのでそこまで頭が回っていなかったが、確かに顔出しはあまり好ましくないな。


 ただの会社員なのだから平穏に過ごしたいし、保佳の保育園の迎えに行った時に指をさされるような事になるのはごめんだ。


 どれくらい映っていたのかを確認するため、慌てて配信画面をスマートフォンで開いてコメント欄を確認する。


『モザイクwwwwwww』


『なんで顔にモザイクかかってるんだwwww』


『これ生配信でしょ? 謎技術すぎるんだけどwww』


「もっ、モザイクぅ!?」


 慌てて配信を巻き戻す。


 俺がユニコーンと戦っている場面。俺がフレームインした瞬間、何故か俺の顔にだけ綺麗にモザイクがかかっている。激しい戦闘シーンだというのに一切ブレる事なくモザイクは俺の顔を追尾している。


 驚いて新にアイコンタクトを送ってみるが、不思議そうに首を傾げているので、そんな設定はないんだろう。


『すごく……大きいです(顔が)』


『顔がわいせつ物ってこと?』


『顔出し(意味深)』


『目隠し、変態、モザイク。これらが意味する事とは……』


『おおよそ真面目な企業の公式チャンネルのコメント欄じゃないんだよな』


 モザイクがかかった経緯は分からなかったものの、最後のコメントに俺は深く頷きながら今日の配信を終えるのだった。

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