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「……ったく……また派手に壊してくれやがったな……」


 最近はダンジョンで無双する配信が流行っているそうだ。


 日本で最大級のダンジョンであるここ『新宿ダンジョン』も例に漏れない。毎日のように大量の配信者が来ては規格外の力で暴れまわって去っていく。


 この『新宿ダンジョン』は地下に潜る程にモンスターが強くなっていくダンジョンだ。


 無双している様を全世界に公開したい配信者がこんな地下深くでスマホ片手に配信が出来ているのは目の前にある金属製の箱のお陰。地上からケーブルを引き込み、通信用の子機をこの地下に張り巡らせているからだ。


 その箱には『DNK』という企業のロゴのシールが貼られている。正式名称はダンジョンネットワーク株式会社。


 その名の通り、ダンジョン内でも通信機器を使えるようにするためネットワーク設備の設置、維持、保守を行うための会社だ。


介泉(かいせん)課長ぉ……こ、ここって本当に大丈夫なんですか!? 新宿ダンジョンって踏破記録が75階層だって聞いたんですけど……ここがその75階層なんですよね!?」


 新入社員の(あたらし)結花(ゆか)がビビり散らしながらぶかぶかのヘルメットを被り直している。


 細身の身体にフィットしないだぼだぼの作業服に後ろでまとめた黒髪がいかにも新入社員という感じだ。


 ダンジョンは出現した場所に寄らず、その階層によってFからSまでの7段階に分けられていて、各々の探索者の実力によって目安が分かるようになっている。


 1-10階層がFランク、10-30階層がEからBランク、30-50階層がBからAランク、50階層以降がSランクという塩梅だ。特に50階層以降は『深層』と呼ばれることもある。当然、階層が深くなるほど強敵が出現するようになる。


 つまり、俺達が今いる75階層はSランク未満の者が足を踏み入れると簡単にモンスターの餌になるような場所。


 ちなみに新は学生時代にダンジョン探索インフルエンサーとして名を馳せていたらしく、Aランクの実力者だ。


 それなりの実力者でありながらも、ここにいる事が分不相応だと思えるくらい謙虚でもある。だから彼女は死なずに済むだろう。


「ここに来る前、俺が教えた事を覚えているか?」


「えぇと……課長から離れるな。課長の許可を得ずにダンジョンの物に触るな。モンスターを刺激するから大声を出すな。後は……」


「自分が何階層にいるか忘れろ。高いところに登った時に下を見るなっていうのと同じだよ」


「でもぉ……」


「ほら。直ったぞ。確認頼むな」


「はぁい」


 手早く部品を交換して疎通確認まで完了。これでこの階層でも問題なくスマホでダンジョン配信をしてもらえるだろう。


 念のため、回線品質のチェックをするために新にはテスト配信をしてもらう事になっている。


「次は76階層の回線施設工事だからな。今晩中に終えないとな。明日の早朝にまたインフルエンサー様が来るんだとよ」


「本当……猫も杓子も配信配信。やれやれって感じですよ」


「お前が言うかよ。ちょっと前までそっち側だったくせに」


「あはは……まぁダンジョン探索者なんていつまで身体が持つかも分かりませんしね。お堅い仕事で社会インフラを担当できて給料が良いからこの会社に就職したのに……結局ダンジョンに出戻り、しかも夜勤ってなんなんですかぁ……」


「そう言うなって。万が一の保険も手厚いし、給料もそこらの民間企業とじゃ比べ物にならないくらい高いぞ」


「むー……そりゃ課長レベルだったらいいかもしれないですけど、意外と年功序列なんですよねぇ。一年目はそこらの民間企業と変わりませんよーだ」


「ボーナスはまだだろ? 深層課は特別手当があるぞ」


 50階層以降は俺が課長を務める『深層課』によって通信網が管理されている。危険と隣り合わせの部署なので報酬はそれ相応だ。


「え!? ボーナスあるんですか!?」


「楽しみにしとけよ。頑張った分は査定に反映してやるからな」


 俺は具体的な金額を言わずにニヤリと笑うと工具箱とケーブルの束を持って次の階層へと向かうのだった。


 ◆


『1コメ』


『あれ? ここ75階層じゃね?』


『喋ってるの誰だ?』


『女の子の声、シン・ユカじゃないか?』


『なっつ。引退したんじゃないの?』


『っていうかチャンネルがDNKの公式なんだが』


『DNKって何? ドンキ―?』


『知らない会社だな』


『ダンジョン内のネットワークを管理してる会社ですよ』


『知らねwwwww』


『実は平均年収が5000万の隠れ優良企業』


『え? っていうかこれ、設定ミスってね? 絶対外部向けじゃないでしょ』


『祭 り の 予 感』

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