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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

一度あいた穴は広がり続ける

作者: 浅江ハル子
掲載日:2023/06/06

「あっ」

 彼女にもらった手編みのマフラーから毛糸が出ていた。

 オレンジというより橙色って感じの色で少しごわごわしていて顔にかかるとガシガシする。

 どうしたもんかなとつまんで伸ばすととシュルシュルと親指ぐらいのぶっとい毛糸が伸びていった。

 やばい。今の彼女結構気が強い人でどう説明してもキレるだろう。キレるだけならいいけど学校中の女子に言いふらさんばかりに悪口を言われる気がする。

 20センチぐらいのその毛糸を眺めながら困り果てる。

 こんなんなら彼女と付き合わなきゃよかった。

 仕方ないなとコンビニ寄って裁縫道具を購入し、車止めに腰を据えて悩む。失礼だが手作り感があふれすぎているマフラーに「あなたのためを思って一生懸命編んだの」というよくわからん感情を載せるくらいなら、その辺の二千円のマフラーの方が使い勝手も肌触りもいいのに。

 裁縫とか中学生の授業ぶりだし。どうしたもんかと。適当に縫えばいいやと針を出してると声がする。

「あのさっ、それなおしたいの?」

こちらを見下ろす他校の制服。

「え?」

「あっ、いえ、ごめんいきなり。それ直そうか?」

「えっ、マジ。いいの?」

「少しかかると思うけど、それでよければ」

「うん」

 男のくせに編み物とかわかんのかと思いながら、治るもんなら直してもらった方が面倒な事が減ると考え直しそのまま渡す。受け取ったそいつはマフラーのほつれた先を掴んで一気に引っ張った。

「ちょっ、なにすんだよ?」

「えっ?あっああ、大丈夫だからみてて」

 まじかよこいつほんとに大丈夫なのかよ。解けていくマフラーを不安しかない目でみつめる。まあもうどうなってもいいやどうせ面倒だからこの際別れよう。

 そいつは特に気にした様子もなく作業を続けて一つの毛糸の塊を作る。なんかあんな布状だったものが丸い塊になるのが変な感じだった。

 カバンから長細い筒を取り出したかと思うとごつい棒を取り出して動かし出した。

「なんか沈黙がいたい」

 苦笑いされる。

「あっごめん。編み物できるの?」

「母の影響でね。学校どこ?」

「田崎高校。その制服は第一だよね。かしこ?」

「そうでもないかな?そういえばこれ俺編みなおして大丈夫だったのかな?ごめんね。先に聞けばよかった」

「大丈夫。彼女のだから」

 こじれたら、もう別れるつもりだけどとは口にはしない。

「いや、いやそれまずくない?」

「もとにもどってれば問題ないと思うし。それよりもすげー早いね。あんた凄いね」

 多様性の時代とか言うけど、料理する奴はまだいるけど、編み物する奴は初めてみた。するするすると編み上げていく。なんかうねうねしてて人の手じゃないみたい。正直結構きもい。

「こんだけ太めな毛糸使ってたら」

 無言でてみてしまう。


 結局、彼女とは別れた。

 これは私が渡したものじゃない、編み目がきれいすぎるといいだした。「そう思うならはじめからきれいなもんわたせよ。めんどくせー」とおもわず言ってしまったら泣いた。さらにさらにめんどくさい。どうせ一週間もしたらこいつが別の男と腕組んで歩いてるのが安易に想像できる。

 断ったら騒いで、めんどうで付き合ったけど結局はじめから付き合うんじゃなかった。なんで欲しくもないもん押し付けられて、だるい相手をしているんだろう。

 少しだけの間でいいから、好きになってもらえるように努力するから。そういった彼女の努力とは何を指していたんだろう。

 まるで自分だけが被害者ですと言わんばかりの動き。お前は大げさな歌舞伎役者か。さらにさめていく。


 別れた後もっと面倒くさいことが起きるかと思ったが特に何もなかった。彼女はサッカー部の先輩と付き合ってる。なんなら二日後には腕を絡めて校内を闊歩していた。目があったがニヤッと笑った後に逸らされた。うぜー、きょうみねぇー。

 このマフラーどうしよう。彼女になんて一ミリも未練がねえ。どうでもいいけど捨てずらい。

 頬に当たる毛糸が、前より肌に当たる感触が柔らかい気がする。今日もあんまんを買って今までよりもゆっくり歩いて帰る。彼にまた会えればいいなと思う。

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― 新着の感想 ―
[一言] 編み物男子、いいですね……。 自分が編み直すのまずかったのでは、と編み始めてから気付いたり、気遣ったりととても気になる男子で、主人公が心を惹かれてしまうのも無理はないなと思いました。 彼女は…
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