秘密の話
――ナイショ、ナイショ、今はまだナイショなの。
一人で行ってはだめですよとママと約束したコンビニへ、五百円一枚持って出かけたの。そうして買った折り紙で、作りに作った輪飾りの山。
そうして今度の金曜日。教室に輪飾りを付けて、学級通信に先生の友人が描いているんだよと載せていた漫画の絵を黒板に描いて、教室に入ってきた先生に向かって、いっせーので言うんだ。先生結婚おめでとう。て……
サプライズが終わるまで、ナイショ、ナイショ、ナイショなの。
――秘密、秘密、秘密にしておくと言ったけれど……
学校の帰り道、立ち寄ったコンビニで委員長とばったり遭遇。帰宅中の買い食いは禁止なのに、委員長の手に持つレジかごには複数のお菓子と漫画のイラストクリアファイルが複数枚。
あれ? この絵どこかで見たような……
そうだ、妹の学校からのプリントに、もうすぐアニメ化すると発表されたばかりの漫画のラフイラストがあったっけ。
「委員長~、意外~。その漫画好きなんだ~」
「しっ、しっ、静かに」
唇の前に指を立て、耳まで赤くしながら言う様に、頭脳明晰、冷静沈着の委員長のイメージが一瞬で様変わり。
「……で、推しは誰?」
そうして指差されたキャラは、委員長のイメージと真逆のキャラ。
「あ、わかった、わかった。このことは秘密にしておく」
秘密、秘密、秘密にしておくけれど、そのクリアファイル集めに集めて、妹の学級通信からその漫画の絵をコピーして……
――秘密、秘密、秘密にしておくと言ったけれど、その秘密、小遣い稼ぎに使ってもいいわよね?
――お前だったらできるよな?
古くから付き合いがあるあいつから、もう何度目かの頼みごと。
――お前の仕事場で俺が求めている光景を撮ってほしい。もちろん、俺が今描いている作品の資料にするだけだ。だから、その小型カメラで指定する場所でのありのままの学生達を撮ってきて欲しい――
あいつのアイデアノートから、連載中のラフイラストを勝手に抜き出し、教育ローンの返済の足しにしていたのがバレて、不問にするかわりに頼まれた事柄は秘密中の秘密。
もうすぐ妻を迎え、じきに親になる今、その悪事から手を引きたいが、あいつは俺が犯した罪を公にするとおどされている。
故に慎重に慎重を重ねねばならない。
――いい? これは、わたしとあなただけの秘密。わたしが愛している人はあなただけ。
耳かきを手に、わたしはあなたを膝枕。昼間の静まり返ったアパートで、わたしはあなたに愛を囁く。
だけど、この生活も終わりに近づいている。わたしは間もなく別の男の妻になる。まだ目立たないお腹の中の命と共に。
親がいう世間体っていうヤツのせいで、わたしは愛する人と一緒になれない。同じ先生って呼ばれる職業なのにね。
――いい? これは、わたしとあなただけの秘密。わたしが愛している人はあなただけ。
――先生へのサプライズ、中止になっちゃった。
作りに作った輪飾りで、飾りに飾った教室の、先生の友だちが描いていると教えてくれた絵を描いている最中、担任の先生が学校に来れなくなったって、教頭先生から告げられた。
一生懸命描いてた絵を消され、作りに作った輪飾りはゴミ箱へ。わくわく、ドキドキの気持ちも一緒にゴミ箱に。
――ああ、どうしたら、いいのだろう。
委員長が推していると知った作品、打ち切りになり、単行本も店頭販売分が回収され、同時にアニメ化の話もなくなってしまった。
高額で取引できるかもと、コンビニをハシゴして、集めに集めたコラボのクリアファイル。取引に出したコメント欄、見るのがこわくてこわくて仕方がない。
――さいあく。そんな言葉しか出てこない。
わたしが愛した先生は、児童ポルノ所持で送検、漫画連載もアニメ化も全部中止になってしまった。
わたしの夫となるはずだった先生は、校内での盗撮が発覚し、教員を辞することになってしまった。
わたしのお腹の子の本当の父親は、絶対に秘密中の秘密。
偽り続けた愛の駆け引きは、世間体からみても未婚の母が一番まともであろう。
――秘密、秘密、秘密の話。
秘密はいつしか破られる。