第2話~無敵の弾と揺れる玉
---野外病院---
昼間よりも随分と体が軽くなった、これなら動ける、少しだけ玉が入っていた袋が痛むが我慢出来る痛みだ、俺は夜になって静まり返った野外病院を抜け出した
(奴らの捕虜になるくらいなら一矢報いて死んでやる!)
だが丸腰では戦えない、微かに敵兵の声もする、不意を突いて奴らの装備を奪うしかない
まさか重傷を負ったそれも金玉が潰れた瀕死の兵士が動くなんて誰も思いやしないだろう
目指すは作戦司令部、ここを落とし、あわよくば兵の配置図を奪えれば上出来だ
暫く道なりを進むと賑やかに談笑する2人の敵兵士が突っ立っていた、コイツらが見張りの兵士だな、俺はほふく前進をしながら迂回していき、2人の兵士の背後を取った
「ん?な!お前はっ!」
1人の敵兵がタマーレに気付き振り返った
(クソッ!ほふく前進で傷は開けるし何より玉はもうねぇーのに股間が擦れてクソいてぇ!)
よろめく俺の動きでは音が立って敵兵に気付かれてしまったが持ち前の戦闘技術で流れるように敵を絞め殺し、何とか2人の装備を奪う事に成功した
「武器はナイフ2丁にフルオートマシンガンの《NUTS.203》が2丁、そして手榴弾4個」
俺は奪った敵兵の物資を地面に並べた
司令部にはざっと見て50人程度、仮に全滅させるとしても途中で奴らの物資を奪いながら戦えばこれで十分だ
なにより嬉しいのは弾がある事、久しぶりに派手にぶっ放す事が出来る
幸い周囲は草木に生い茂っている、俺は身を隠しながら少しずつ司令部に接近していった
身を隠す俺の前を通り過ぎていく兵士は皆仲間と喋ったりフラフラと歩いたりと隙だらけ
生き残りは俺1人しかない、そいつを捕らえてもう周りに敵がいないと分かればいくら一流の兵士でも1か月にも及ぶ戦いの後では気が抜けるのも当然だ
(今だ!)
俺は敵兵達が通り過ぎ、周りに誰もいない事を確認して手榴弾のピンを抜いた
(どこでもいい、敵がいるところに落ちてくれ!)
走りながら1つずつピンを抜いて投げていった
爆発音の後に宙に吹っ飛んでいく敵兵を見て俺はチャンスと思って建物内にいる敵兵に向かって銃を乱射した
続けざまに電灯を破壊し、常に不意うちで次々と敵兵を撃ち殺していく
「うおらあぁーーー!」
今まで一方的な戦争を仕掛けられていた俺からすればバタバタと倒れていく敵兵士は快感でしかない
(思ってたよりも数が多いな、全滅させる考えでいたが情報だけ奪って逃げるか)
各地の兵士の配置図が分かれば一気に戦況は逆転する
ただでさえ祖国であるチンナース国の戦力は敵のキントリ帝国と比べてかなり劣っている
そもそも勝てる戦いではないのだが配置図が分かれば必ず勝てる!
(どこかに、どこかにあるはずだ!)
俺は暗闇の中、敵兵を撃ち殺しながら配置図を探した
この際もう配置図でなくてもいい、何か戦況を逆転できる情報を掴めれば何でもいい
俺は必死に建物内を探った
「ん?これは!」
俺は1枚の文書を手に取った
よく見てみるとどうやらキントリ帝国は隣の小国から物資を補給しているらしい
他にもキントリ帝国の入国手形など配置図は見当たらなかったが、使える文書を近くに置いてあった敵兵のバックパックに詰めて司令部を後にした
「逃げたあの捕虜を探し出せ!」
島中の警報器が作動し、敵兵達が茂みを突っ切って行く
傷は開けれるし玉が無い股間は擦れて痛いがほふく前進で夜が明けるまで休むことなく突き進み、やっとの思いで海岸に辿り着いた
当然ボートなんて存在しない、島から南に約2000キロ進めばチンナース軍の駐屯地がある島に辿り着ける
泳いで渡るしかないが当然フカに襲われる危険がある
俺の命よりも文書を届ける事が出来ないリスクを考えると敵艦に侵入し、運に任せてチンナース軍と合流する機会を待つか考えたがフカに襲われるリスクよりも見つかって殺されるリスクの方が高いと判断した
(絶対に何としても死んでも届けるんだ!)
俺は海に飛び込みひたすら南に南に泳いだ
夜が明けるまでほふく前進をした事によって傷口が大きく開き、体中にはウジがわき、そして一番苦しかったのは玉がない空いた袋がユラユラと揺れる事によって生じる股間の激痛だった
「はぁはぁはぁ」
心を無にして祖国の風景を思い浮かべながら必死に泳いだ
不運な事に泳いでから丸1日が経った頃、大きな嵐に遭遇し、波は高くなり流石の俺も波に飲まれてしまった
-----------次話に続く